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公開シンポジウム

 

中世鎌倉の素顔

 

11月5日(土)13:30〜16:30  A会場

 

オーガナイザー

前川要(中央大・文)、石田肇(琉球大・医・解剖)

 

 

趣旨説明

前川要(中央大・文)、石田肇(琉球大・医・解剖)

 

 鎌倉は日本の武家政権が最初に開いた幕府の地である。史跡や文献で知られる中世の鎌倉は一つの側面であり、その当時の実像は未だに良く分からない。先年来、鎌倉では数々の遺跡が発見され、発掘が行われてきた。そこには、多数の文化遺物に加えて、おびただしい数の人骨が見つかっている。すでに、この人骨群について、鈴木尚氏が中世日本人の長頭化を証明し、世界的な業績を挙げている。今回、鎌倉時代の首都とも言える幕府の地、鎌倉で、人々がどのように生まれ、どのような暮らしを送り、そして死んでいったのか、つまり生老病死を知ること、さらには、実際に当時の社会で何が起こっていたのか知ることを目的としたい。我々にとって、「近未来」ではなく、意外と知られていない「近い過去」の様相を探ることは、中世という日本の原点を共有することになる。これは、一般の人々や青少年が「日本」を学ぶよい機会となろう。中世鎌倉に生きた日本人を数々のアプローチを用いて、しかも、統合的に紹介する。やはり、一つは中世鎌倉の遺跡、史跡からの視点であり、考古学や動物考古学の成果を報告することになる。これには、動物利用のことなど、生業や職能集団の復元も含まれる。人骨群を基に、鎌倉時代の人々の生命表の提示、病気や刀傷の紹介を行い、その時代の様相を再現する話をしたい。さらに、先端科学的アプローチとして、人骨からのDNA抽出、増幅からは、系統関係、家族関係の話まで、披露できるかもしれない。また、10年以上も前に、アメリカの人類学者ブレースが、「サムライ―アイヌ説」を出して、アメリカ中の話題になり、鎌倉が有名になった。アメリカの人類学者がその後の経緯などについて紹介し、中世鎌倉の世界的位置や評価について、講演を行う。

 

 


公開シンポジウム SO−1

中世の人類学紹介

石田肇(琉球大・医・解剖)

Introduction to anthropological studies on the Medieval Japan

ISHIDA, H.

 

 日本の中世の人々の形態特徴は、長頭化と咀嚼器官の退化で表される。北海道南部から九州に至る地域での共通した特徴である、古代から中世にかけての長頭化、その後の短頭化の原因は、おそらく、咀嚼器官の退化による顔面頭蓋の変化が脳頭蓋にも影響をもたらしたようだ(山口、2001)。鎌倉時代からは、前歯の咬耗が格段に軽くなり、奥歯の咬耗は、中世以降、とくに近世からは、ぐっと軽くなることで証明される(海部、1999)。同時期に、南の琉球列島はグスク時代を迎え、北海道以北ではオホーツク文化の人々が出現する。これらの人々の生活の模様は、鎌倉に代表される中世日本人とは様相を異にするようだ。

 

 

公開シンポジウム SO−2

中世における鎌倉―考古学から

前川要(中央大・文)

Kamakura in Medieaval Period from the Archaeological Point of View

MAEKAWA, K.

 

 鎌倉の都市計画が広域に設定されるのが、13世紀半ばころである。北条泰時は,街区の大改造をする。それまで鶴岡八幡宮東側の大倉にあった幕府を,若宮大路二ノ鳥居近くに移した。鎌倉は、七口と呼ぶ切り通しによって地形的に境界が作られ、海に開いた谷である。当時はこの内部が都市と認識されていた。都市の内部は大きく4つのゾーンに分離可能である。鶴岡八幡宮・執権邸・幕府などの政治部分、若宮大路両側の武家屋敷部分、外側の寺院関連部分、そして浜地である。今までに人類学で知られている材木座や由比ヶ浜南遺跡など出土の人骨の出土地点は、都市空間研究の側から見れば、清められた「有縁」の主従制度が通用する都市の外側に外接する、穢れた「無縁」の地域の中という位置づけが可能である。

 

 

公開シンポジウム SO−3

鎌倉の人々の様相

平田和明(聖マリアンナ医大・解剖)

The medieval Kamakura people

HIRATA, K.

  鎌倉市由比ヶ浜海岸に面し、旧市街のほぼ中央を南北に流れる滑川から西の稲瀬川付近までの由比ヶ浜地域は、中世には前浜といわれていた。この地域の中世遺跡からはおびただしい数の人骨が出土している。その人骨調査は、昭和28年の鈴木らによる材木座遺跡発掘報告による910体以上の中世人骨の詳細な研究にはじまる。近年では、聖マリアンナ医大を中心に由比ヶ浜南遺跡の単体埋葬墓・中世集団墓地遺跡<No.372>・静養館遺跡からの1300体以上におよぶ出土人骨の調査研究が進行中である。これら由比ヶ浜地域内の各遺跡出土人骨の出土状況および形態人類学的研究成果を報告し、中世の時代に鎌倉に暮らした人々の様相を探りたい。


公開シンポジウム SO−4

鎌倉の人たちの遺伝子は?

篠田謙一(国立科博・人類)

DNA analysis of the medieval Kamakura people.

SHINODA, K.

 

 これまで2年間にわたり由比ヶ浜集団墓地遺跡から出土した人骨のDNA分析を行ってきた。昨年は人骨にDNAが分析可能な状態で残っているかを検証するために、抽出したDNAをもとにPCR法を用いてミトコンドリアDNAのcoding region の数カ所と D-loop 領域を増幅し、それぞれの個体のハプログループが決定できるかを検討した。その結果、中世鎌倉人骨には、分析が可能なかたちでDNAが残されていること、またこの墓地が特定の血縁集団のものではないことなどが明らかとなった。今回は、埋葬形態から血縁関係が予想される個体についての解析を行った。双方の結果を併せて考察し、中世鎌倉の人々の遺伝的な特徴について報告する。

 

 

公開シンポジウム SO−5

動物考古学は鎌倉をどうみるか

鵜澤和宏(東亜大・総合人間・文化)

A zooarchaeological perspective on the medieval Kamakura

UZAWA, K.

 

 由比ヶ浜南遺跡から出土した動物骨の特徴を報告する。これまで中世都市における動物利用については、大阪市内や草戸千軒などの西日本における事例を中心として、 (1)動物を扱う専門集団が現れ、動物処理が社会構造や職能の問題に深く関わるようになること、(2)ウシ、ウマなど家畜の利用が増加すること、などが指摘されてきた(松井 2001)。由比ヶ浜南遺跡における動物骨の出土状況からも、遺体処理を行う専門集団の存在が示され(鵜澤 2001)、東西日本で共通する特徴が明らかになってきた。一方で、鎌倉ではウマの出土が特に多いといった特徴もある。中世鎌倉における動物利用についての知見を整理、検討する。

 

 

公開シンポジウム SO−6

アメリカから見た鎌倉:ブレイスのアイヌ−サムライ説・その後

瀬口典子(モンタナ大学ミズ−ラ校・人類学部)

Brace’s Ainu-Samurai Hypothesis from 1989 until Today

SEGUCHI, N.

 

 1989年に、ミシガン大のローリング・ブレイス教授らは「Reflections on the Face of Japan」という論文をAmerican Journal of Physical Anthropologyに発表した。この論文で、ブレイスらは、鎌倉の材木座・極楽寺付近から出土した1333年の鎌倉攻めの犠牲者人骨の歯のサイズと頭蓋骨計測データを用いて、鎌倉武士はアイヌと近縁であるという説を唱え、アメリカで注目を集めた。今回、ブレイスの頭蓋骨計測データを新しい統計処理法を使って再分析した。また、歯の計測データに関しては、ブレイスらは歯の合計面積の平均値のみを使って集団間の血縁関係を議論したが、今回は、個々の歯のサイズのデータを用いて多変量解析を行い、それらの結果を報告する。


シンポジウム1

 

進化人類学分科会シンポジウム

中新世後期のアフリカ:二足歩行を生んだ環境を探る

 

11月4日(金)10:00〜12:00  B会場

 

オーガナイザー

石田英實(滋賀県立大学・人間看護)

 

 

趣旨説明

石田英實(滋賀県立大学・人間看護)

 

 中新世後期の中頃までにヒト上科のあるグループが二足歩行を始めたことはほぼ間違いがない。この歩行様式を導いたのは、たんに新しがり屋が個人的に二足歩行をはじめ、それが群れに広がったからだとは思えない。伝統的な歩行様式を捨て、新しい様式を採用するには、彼らの生活にかなり大きな圧力がかかったからとみるのが妥当である。

 採食と逃避は生活上の二大要素である。これらに支障が生じた時、様々な点で生活上の変更を迫られる。支障は何により引き起こされるか、人口爆発による食糧難も大きい原因であろうが、環境的要素がそれ以上に大きいものではなかろうか。

 樹上性の霊長類の場合、広大な森林が維持されておれば、彼らは生活様式を大きく変更しなくても生きてゆける。しかし、森林が消失すればそれまでの生活は難しくなり、根底から生活様式の変更を迫られる。

 ここで、問題になるのが中新世後期のアフリカ、ことに東アフリカの環境であろう。サバンナ化が進行し、森林が消失するという環境変化が存在したのか。東アフリカの中新世後期は全体であれ、部分的であれ、森とサバンナの間を大きく揺れ動いたと予想される。

 このシンポジウムでは、上のように人類誕生のキーファクターが環境であったという視点に立ち地質学、古植物学、古動物学の3つの分野から中新世後期の東アフリカに見られた環境変動の姿を追う。

 


シンポジウム1 S1−1

サンブルピテクスの生息した960万年前のサンブル丘陵

○実吉玄貴、酒井哲弥、沢田順弘(島根大・総合理工)、石田英(滋賀県大・人間看護)

Paleoenvironment about 9.6 million years ago in the Samburu Hills, northern Kenya Rift

SANEYOSHI, M., SAKAI, T., SAWADA, Y., ISHIDA, H.

 

 ケニア北部、サンブル丘陵に分布する960万年前の地層からは、大型類人猿化石であるサンブルピテクスが産出される。この研究では地層から当時の古環境を読み取り、サンブルピテクスの生息環境を推測する。地層の重なり方や分布、地層自体の特徴などから、サンブルピテクスを含む地層は、小さな湖が点在し、火山灰が降り、時に火砕流や土石流が発生するような環境であったことを示す。また陸上環境と湖環境を示す地層が頻繁に重なり合うことから、季節的な湖の拡大と縮小が繰り返されていた。この時、河川は湖周辺に限定されていたと考えられ、サンブルピテクスは化石として産出した場所から比較的近い場所に生息していた可能性がある。

 

 

シンポジウム1  S1−2

ケニア北部サンブルヒルズの哺乳類動物群からみた地質年代と古環境

○辻川寛(京都大・理・動物)、仲谷英夫(香川大・工・地球環境)

Geologic age and palaeoenvironments of mammalian faunas from Samburu Hills, Northern Kenya

TSUJIKAWA, H., NAKAYA, H.

 

 ケニア北部サンブルヒルズから産出した中新世哺乳類動物群に基づき、この地域の地質年代と古環境を考察した。結果、この地域では、サハラ以南のアフリカの他地域と同様に、前期から中期中新世には森林が発達していたが、後期中新世には気候が乾燥し、草原が広がったことが哺乳類の臼歯形態に基づくグレイザーとブラウザーの比率から示された。また、中期中新世(約1600万年前)のヒト上科ナチョラピテクス・ケリオイは森林環境に、後期中新世(約960万年前)のヒト上科サンブルピテクス・キプタラミは草原に囲まれた疎開林的環境に生息していた可能性が高いことが示された。

 

 

シンポジウム1  S1−3

二足歩行の起源した場所の植生

巻島美幸(滋賀県立総合保健専門学校)

Vegetaions where bipedalism emerged

MAKISHIMA, H.

 

 二足歩行が起源したのはどのような植生の場所であったのか、中新世後期の東アフリカで植生を復元するためになされてきた様々な材料による試みを総合し、ありうる姿を考える。また、現在の東アフリカから、起源地の植生のアナローグと見做しうる半乾燥地河辺林をとりあげる。開放的な植生の中に高木の集まるこの林の構造や食物生産力などを紹介し、可能性を議論する。


シンポジウム2

 

ヘルス・サイエンス分科会国際シンポジウム

Growth, Aging, and Motor Performance: Aim of the symposium

 

11月4日(金)13:00〜17:00  B会場

 

オーガナイザー

濱田穣(京都大・霊研・形態)、中野良彦(大阪大院・人間科学・生物人類)

 

 

趣旨説明

濱田穣(京大・霊研・形態)、ローラ・ニューウェルモリス(ワシントン大・人類)

 

 Recently, the proportion of individuals of advanced age and the mean life expectancy are increasing, particularly in economically developed countries.  Accompanying these trends, the lessening of QOL (quality of life) looms as a major social problem. Among factors that impact the QOL, is the impediment of locomotion and positional behavior associated with degenerative health conditions of aging, e.g., osteoporosis and fracture, osteoarthritis, and impaired neuromuscular function.  We must, therefore, design preventive measures within a framework that includes not only the age-related changes in locomotion and the locomotor apparatus, but also contributing factors such as nutrition and the quality and quantity of daily physical activity.  It is useful to compare the patterns of aging in several species of non-human anthropoids (NHA), with the goal of detecting both differences and communalities in the aging process. Only in this way can we hope to identify the most appropriate biomedical NHA model by which to address specific questions about the initiation and development of the multiple complex processes of aging. In this symposium devoted to “Growth, Aging, and Motor Performance”, we will discuss these issues synthetically from a comparative anthropological perspective. 

 


シンポジウム2  S2−1

ヒト科の二足歩行:類人猿とヒトの実験研究から何が解るのか

○クリスティアン・ダウット、エヴィ・ヴェレッケ、カーステン・ショーネート、ピーター・エルツ(全てアントワープ大学・機能形態学研)

Bipedal walking in hominids:what can we learn from experimental research on apes and humans?”

D’Août, K., Vereecke, E., Schoonaert, K., Aerts, P.

 

 The acquistition of bipedal walking was a key event in human evolution. Unfortunatly, revealing the precursor and the nature of hominid bipedalism from fossil remaining alone is not self-evident. Experimental work on extant primate species can provide valuable insights, e.g. by providing background information for the interpretation of fossils (skeletal elements or footprints) and by testing the likeliness of current hypotheses about the origin of hominid bipedalism.  We will present recent data on locomotion in various species: gibbons, bonobos, chimpanzees, and humans.  These species all exhibit bipedal walking, although they differ widely in frequency and type of bipedalism, morphology and locomotor behaviour.  Using kinematic, kinetic and pedobarographic data of these species, combined with anatomy and morphometry, we will address selected topics in the context of the two major hypotheses pertaining to the origins of habitual bibedalism in humans: the “arboral” and the “terrestrial” hypotheses.

 

シンポジウム2  S2−2

若齢チンパンジーにおける垂直木登りの発達変化

中野良彦(大阪大院・人間科学・生物人類)

The developmental change of the vertical climbing in young chimpanzees

NAKANO, Y.

 

 The analysis of the vertical climbing that the ape especially does is paid to attention as one of the big clues when the acquisition process of bipedal walking of the human is clarified. To examine how a functional feature of such a climbing developed, the experimental research was done. Subjects were four chimpanzees bred at the Hayashibara Great Ape Research Institute. The video shooting of the vertical climbing was done from November, 2001 to May, 2005 every about six months, and the analysis comparison of the movement pattern was done. In the results, the following points were admitted. The change in the movement of lower limbs is larger than the upper limbs. The angle to the substratum of the thigh tends to grow and the movement of the pushing to the lower side out and the plantar-flexion of foot joint becomes weak according to growth. The individual with a small weight increase appeared to such a change late.

 

シンポジウム2  S2−3

モデルベースアプローチによる歩行と立位姿勢の安定性評価

○長谷和徳(名古屋大・工・機械理工)、川口勉(名古屋大・工・機械理工)、大日方五郎(名古屋大・先端研)

Evaluation of stability in gait and standing posture using model-based approach

HASE, K., KAWAGUCHI, T., OBINATA, G.

 

 歩行や立位姿勢の安定性の評価は、高齢者の転倒問題のような今日的な視点からも重要なだけでなく、ヒトの直立二足歩行などの身体運動の本質を理解する上でも意義がある。姿勢の安定性などは、簡易的には足圧中心動揺のような直接的に計測可能な物理量に基づき評価を行うが、これらの測定項目は運動の「結果」を分析しているだけであり、そのような動揺不安定性に至る「原因」を特定することは困難である。このような問題を解決するためには、身体の運動機能を表した数学モデルと計算機シミュレーション技術に基づいたモデルベースアプローチが有効であると我々は考えている。モデルベースアプローチでは、身体の運動力学特性のほか、神経系の信号伝達特性、感覚受容器の感度特性などを考慮した数学モデルを構築し、計算機シミュレーション技術によって運動の原因とその結果との因果関係を分析する。我々は、これまでにも計算機シミュレーション技術を用いた力学外乱に対する歩行の安定性の評価や、身体固有感覚感度モデルに基づいた立位姿勢の安定評価の研究に取り組んできた。本発表では、これらの研究の概略を紹介するとともに、その有用性と問題点について議論を行う。


シンポジウム2  S2−4

等尺性収縮における筋電位特性値から見た神経筋系の加齢変化

岡田守彦(帝京平成大・ヒューマンケア)

Detection of senile changes in the neuro-muscular functions with EMG variables during isometric contractions

OKADA, M.

 

 Developed countries are facing the ages of increasingly extending longevity which Homo sapiens has never experienced yet. Motivated by these situations, the author has estimated the age-related changes in neuro-muscular functions by using several surface EMG variables. Females in their twenties through seventies conducted isometric dorsi-flexion of the ankle, for 5 sec with maximum effort and for 1 min with submaximal (60% max.) effort. Surface EMGs were recorded from tibialis anterior muscle with an electrode array, and the median frequency (MDF), average rectified value (ARV), and conduction velocity of the myoelectric potentials (MFCV) were calculated. For the maximum effort, ARV and MFCV were significantly higher in the age groups over 60 than in the age group of 20/30. During the submaximal continuous contraction, the fatigue-induced changes in MDF and MFCV were significantly smaller in the elderly than in the young. A similar trend was also seen in ARV change. These results suggest occurrence of selective atrophy of the fast-twitch muscle fibers and deteriorated motor unit recruitment in the elderly.

 

 

シンポジウム2  S2−5

健康な高齢者歩行の特徴

〇木村賛、小林宏光、中山栄純、花岡美智子、藤田三恵、橋本智江(石川県立看護大)

Gait pattern of the healthy elderly

KIMURA, T., KOBAYASHI, H., NAKAYAMA, E., HANAOKA, M., FUJITA, M., HASHIMOTO, T.

 

 65歳以上の健康な高齢者23名(男12名、女11名)の普通速度歩行を観察した。長期継続観察の一環であるが、今回は初年度の結果のみを示す。7m距離の水平面を往復してもらい、その中央3mの歩行をデジタルヴィデオカメラ60f/sで撮影し、PC上で読み取って解析した。高齢者の平均歩行速度はこれまでもいわれているように青年と比べて遅い。これは一歩時間(あるいはCadence)の変化ではなく、一ストライド長が短いことによっている。下肢関節の可動域とくに股関節可動域の小さいことが距離を小さくしている。足部の上昇量は少ない。

 

 

シンポジウム2  S2−6

加速度計を使用した高齢者の階段昇降における下肢運動分析

○足立和隆(筑波大・人間総合科学)、岡田守彦(帝京平成大)

Kinesiological Analysis of the Leg by Using of Accelerometer during Stair Walking in the Elderly

ADACHI, K.,OKADA, M.

 

 高齢者の歩行機能の低下には、筋力の低下と神経制御機構の機能低下の二面がある。前者は、平地歩行の実験から明らかとなっているが後者は明確でない。本研究では、一般成人と高齢者を対象として腰、大腿、下腿、足に加速度計を装着し、階段昇降における下肢運動の滑らかさ(巧緻性)を詳細に分析した。巧緻性は測定した加速度をさらに微分した加加速度(jerk)によって評価した。その結果、高齢者と一般成人の差は階段の降動作において明確であり、腰部の上下運動、下肢運動の遊脚期の運動に差がみられた。これらの結果から、高齢者においては筋力の低下ほど著しくはないが、神経制御機構(感覚性と運動性)の機能低下も生じていることが示唆された。


シンポジウム2  S2−7

アカゲザルにおける加齢と運動パフォーマンス:長期カロリー制限の影響

○ドナルド・イングラム(国立加齢研・実験老齢研究室)、ジェニファー・ヤング(ソブラン社)、マーク・レイン(国立加齢研・実験老齢研究室)、ジョージ・ロス(ジェロサイエンス社)、ジュリー・マティソン(国立加齢研・実験老齢研究室)

Aging and Motor Performance in the Rhesus Monkey:  Effects of Long-Term Calorie Restriction

INGRAM, D. K., YOUNG, J., LANE, M. A., ROTH, G. S., MATTISON, J. A.

 

 Since 1987 we have been conducting a longitudinal study of aging in rhesus monkeys (Macaca mulatta) to assess the beneficial effects of a low calorie diet (30% of control level).  In rodent studies, calorie restriction (CR) has been demonstrated consistently to increase lifespan, reduce the incidence and onset of age-related disease, and attenuate functional declines.  As part of this study, we are evaluating motor performance, measured as home cage activity using automated devices as well as manual dexterity measured in an automated movement assessment panel attached to the cage. We have reported clear age-related declines in activity; however, no consistent effects of CR on activity have been observed.  In the manual dexterity task, we have also observed age-related performance declines, and in the most difficult component requiring the monkey to retrieve a reward from a hook, we have found that monkeys on CR have superior performance compared to controls.

 

 

シンポジウム2  S2−8

チンパンジーの大腿骨の発達について

石田英實(滋賀県大・人間看護)

On the Development of the Femur in Chimpanzee

ISHIDA, H.

 

 成長にともなう類人猿の骨格発達は、かつてA.シュルツにより精力的に研究されたが、その後はまとまった研究がない。そこで、リスザル、ニホンザルなど霊長類の長管骨の発達をみてきたが、ここではチンパンジーの長管骨、とくに大腿骨の発達について報告する。用いた材料はチューリッヒ大学の人類学部・博物館(Anthropological Institute and Museum)に所蔵されている28個体分(幼年:2、若年:10、未成熟:2、成熟:7)であり、これらについて観察し、11項目について計測をおこなった。成長にともない絶対値は増加するが、形状の変化では顕著な特徴は見られなかった。しかし、大転子は幼年と若年では明らかに未発達であり、その後の成長過程で発達する所見を得た。同様な傾向は内側顆や他の骨端部で観察されるが、いずれも顕著なものではない。以上のことから、チンパンジーの大腿骨、また他の長管骨においても、それらの発達では著しい部分的な発達が伴わないといえる。

 

 

シンポジウム2  S2−9

チンパンジー大腿部筋骨格系の成長加齢

○松村秋芳(防衛医大・生物)、西村剛(京都大・理)、高橋裕(防衛医大・生物)、濱田穣(京都大・霊長研)

Growth and aging of the thigh musculo-skeletal system in chimpanzees

Matsumura, A., Nishimura, T., Takahashi, Y., Hamada Y.

 

 The aim of this study is to analyze how the modes of locomotion correlate with functions of hindlimb bones and muscles among the different age groups of chimpanzees. By using CT, the cross-sectional geometric parameters were determined serially along the diaphysis of the femur of chimpanzees (Pan troglodytes) including young and adult individuals. By using MRI, the relationships among the cross-sectional morphology of the femoral shaft, cross-sectional areas of the muscles, and muscle attachment regions of the bone were examined in the thigh of chimpanzees in infant, young and adult specimens which were fixed in formalin. We discuss the results from the viewpoint of differences in cross-sectional morphology of the femur shaft, muscle contractile forces, gravitational forces, motor development and modes of locomotion.


シンポジウム2  S2−10

地域高齢者を対象にした歩行時のフットクリアランスに関する研究

西澤哲(都老人研・自立介護研究チーム)

Study on the foot clearance in the walking of elderly persons

Nishizawa, S.

 

 高齢者の歩行時における転倒原因のひとつに、遊脚期のつま先床面距離(フットクリアランス)の減少が仮説として考えられている。本研究はこの仮説に対して、644人の高齢者、および63人の若年齢者における歩行の3次元運動データより検証を行った。その結果、高齢者においてのフットクリアランスは、高齢者の年齢群に関係なく一定であり、また若年齢者群に対して有意に高くなるという結果が得られた。これにより、フットクリアランスの低下による転倒の可能性は無いことが明らかになった。また遊脚期の運動学的パラメータと転倒既往歴の関係を調べると、遊脚期終了時のつま先の高さが最も強い関係を示した。

 

 

シンポジウム2  S2−11

ニホンザル(Macaca fuscata)における成長と加齢:胴長と骨塩量

○濱田穣、早川清治、茶谷薫(以上、京大・霊研・形態)、ローラ・ニューウェルモリス(ワシントン大・人類)、鈴木樹理(京大・霊研・人類進化モデル)

Growth and aging in Japanese macaques (Macaca fuscata): trunk length and bone mineral content

HAMADA, Y., HAYAKAWA, S., CHATANI, K., NEWELL-MORRIS, L., SUZUKI, J.

 

 The precise ages at which linear dimension stops increasing and starts decreasing have not been studied for macaques.  Based on somatometric database of macaques (Macaca fuscata: max age of ca. 30 years), we report the age-change pattern of trunk length and Total Body Bone Mineral Content (TBBMC, obtained by DXA).  After the rapid increase up to 7 years, the trunk length still gradually increases up to ca. 12-15 years, and then, starts decreasing which is accelerated at the age of ca. 20 years.  This age-change pattern in macaques considerably differ from that in humans, and the relatively late epiphyseal fusion in macaques is considered to cause the difference.  The decrease appears to be owed to the shortening of joint distance and rapid progress of kyphosis.  The TBBMC does not show significant change in adult, and osteophytosis may balance the bone loss.  Macaques must be used for aging study with caution.


シンポジウム3

 

骨考古学分科会シンポジウム

骨考古学からみたドメスティケーション

 

11月5日(土)09:30〜11:30  A会場

 

オーガナイザー

富岡直人(岡山理大・総合情報・生物地球)

 

 

趣旨説明

富岡直人(岡山理大・総合情報・生物地球)

 

 現在、骨考古学の分野でドメスティケーション(domestication: 家畜化・家禽化)についてどのような研究がなされているのか、論点と課題を示す事が、このシンポジウムの目的である。

 従来の家畜・家禽化の研究は、骨格の比較形態学的分析が主流であったが、近年では古DNA分析による系統解析や安定同位体比による餌・飼料の判別といった理化学的研究法の応用が進み、それぞれの成果の総合化が図られている。

 「家畜・家禽化」は、「農耕の開始」と並んで新石器文化の定義や社会変革と不可分の要素として論じられ、かつては産業革命にも匹敵する大変革と捉えられてきた。近年の研究ではこのような社会的背景と、生物学的・化学的特徴を結びつけて、ドメスティケーションの人間社会に果たした役割を探ろうとする意識が高まってきている。

  本シンポジウムでは、家畜・家禽化に対する様々な視点からの取り組みに関する発表を踏まえ、研究の現状とその問題点について検討したい。

 


シンポジウム3  S3−1

日本における動物考古学による家畜研究の展開

○富岡直人(岡山理大・総合情報・生物地球)、松井章(奈文研・埋文センター)

Recent Developments of Zooarchaeological Approach to the Domesticated Animals

TOMIOKA, N., MATSUI, A.

 

 近年、日本における生物考古学的な家畜研究の進展は著しく、イヌやイノシシ/ブタの古DNA分析や、安定同位体による食性分析法によって、家畜化を巡る研究に新しい展開をもたらし、アジア周辺諸国との共同研究の重要性が高まっている。一方、家畜をめぐる文化論は、起源論はもとより、通史的理解の深化を期して、解体、食肉、皮革・骨角細工、儀礼、差別等を研究対象としつつ、理化学的研究と歩調を合わせた研究が深められ、民俗学や文献史学へも影響を与えている。本論ではこのような研究の流れを整理し、家畜・家禽化の定義を再確認し、各発表者の立脚する視座を確認する。

 

 

シンポジウム3  S3−2

先史時代における動物の埋葬と埋納

山田康弘(島根大学・法文部・社会文化学科)

Animal burials and deposits in Prehistoric age

YAMADA, Y.

 

 縄文時代の遺跡からは,動物を埋葬・埋納したと考えられる事例が検出されることがある。埋葬が行なわれた可能性のある動物としては,イヌ・イノシシ・シカ・タヌキ・キツネ・サル・オジロワシなどがある。これらの中にはあたかもヒトの埋葬例を取り囲むかのように配置されたものや,ヒトと合葬されたと思われるものも確認されている。一方,土坑内あるいは土器などの容器に入れられて埋納されていたものには,イヌ・イノシシ・サル・ヘビなどがある。今回のシンポジウムでは,韓国や中国の事例も参考にしながら,動物の埋葬・埋納例を整理し,民族学(民俗学)的な視野を射程に入れながら,その意味するところについて解釈を提示したい。

 

 

シンポジウム3  S3−3

先史時代におけるイノシシ利用の多様性と解釈をめぐる諸問題

○姉崎智子(群馬自史博)、山崎京美(いわき短大)、本郷一美(京大・霊長研)

Hunting or management?: status of pigs in the Jomon Period

ANEZAKI, T., YAMAZAKI, K., HONGO, H.

 

 ニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)は本州、四国、九州に、またリュウキュウイノシシ(Sus scrofa ruikiuanus)は琉球諸島に生息する。これら日本列島産イノシシの骨形態は地理的多様性が大きく(Endo et al. 19941998a1998b2000)、先史時代の動物利用の変化を動物遺体から検討するためには、時間的変異とともに地理的多様性を考慮する必要がある。縄文時代から弥生時代の本州および北海道、伊豆諸島の遺跡より出土した二ホンイノシシ骨について死亡年齢構成比の推定と形態分析を行った結果について報告する。

 


シンポジウム3  S3−4

家畜化を遺伝子で探る

石黒直隆(岐阜大・獣医・食品環境)

Genetic analysis of domestication

ISHIGURO, N.

 

 家畜として飼育されている動物の中で、起源種が今も現存し、形態的あるいは遺伝的に解析できるのは、イヌ(オオカミ)と家畜豚(イノシシ)である。しかし、今では家畜化された動物の方が多様性に富み、起源種の系統を形態的に特定することは困難である。わずかに、遺伝的な解析からしか起源種を推測できない。日本国内には古くからニホンイノシシとリュウキュウイノシシが生息していた。この野生イノシシの中に系統の異なる家畜豚が移入された場合は遺伝的に明瞭に区別できるが、遺伝的に近い場合は区別が困難である。形態的な分析と遺伝的な分析の違いについて、家畜豚やイノシシの遺伝的特徴と古代DNA解析から家畜化の問題点を論じてみたい。 

 

 

シンポジウム3  S3−5

遺跡出土カモ科鳥類における家畜個体識別の試み

○江田真毅(学振、九大・比文)、小池裕子(九大・比文)

Identification of domestic birds from Anatidae (ducks and geese) archaeological remains: a preliminary study

EDA, M., KOIKE, H.

 

 カモ科の鳥を家畜化したガチョウやアヒルは、文献史上、平安時代以降日本でも飼育され、江戸時代には市で売買されていたことが知られている。一方、先史時代以降、日本の遺跡から出土したカモ科の骨を、骨の形質から家畜個体と同定した例は管見の限りない。この文献史上と考古学上の相違は、遺跡出土カモ科鳥類骨の野生個体と家畜個体との識別が困難なことに由来すると考えられる。本発表では、最も多く家畜化されたカモ科が含まれると考えられる江戸時代の遺跡を例に、骨髄骨(繁殖期の雌個体の骨内に形成される二次的な骨)や幼鳥の骨の有無の観察、DNA分析や窒素と炭素の安定同位体比分析による家畜個体を識別する試みについて紹介する。

 

 

シンポジウム3  S3−6

偶蹄類の家畜化過程の解明:西アジアにおける動物考古学研究

本郷一美(京都大学霊長類研究所)

Domestication process of ungulates: zooarchaeological research in Southwest Asia

HONGO, H.

 

 西アジアはウシ・ヤギ・ヒツジ・ブタの家畜化が進行した地域の一つであり、20世紀前半から多くの動物考古学的研究が行われてきた。最近は、形態やサイズの分析を中心とする従来の手法に加え、家畜の系統と伝播経路をDNA分析により探る試みや、炭素・窒素の安定同位体分析による食性と古環境の研究が盛んである。サイズ比較による野生種と初期家畜の判別においては、野生種の地理的なサイズ変異を考慮する必要が認識されるようになった。動物種により家畜化の過程が違うこと、狩猟から家畜飼育への移行過程が遺跡の立地や環境により多様であることが明らかにされ、研究の焦点は家畜の起源を解明するものから家畜化と社会・経済的変化の過程を探るものへ移っている。


シンポジウム4

 

歯の人類学分科会シンポジウム

カラベリー結節 −その発生を考える−

 

11月5日(土)09:30〜11:00  B会場

 

オーガナイザー

金澤英作(日大・松戸歯・解剖人類形態)、近藤信太郎(昭和大・歯・口腔解剖)

 

 

趣旨説明

金澤英作(日大・松戸歯・解剖人類形態)

 

 分子生物学的な手法、ノックアウトマウスの解析あるいは疾患モデル動物の原因遺伝子の解明などから、歯の発生のメカニズムは近年急速に解明されつつある。これらの研究は歯の形態を理解する重要な手がかりを与えてくれるはずである。しかし、人類学の研究者と分子生物学の研究者の間の交流は少なく、互いの研究が理解できないでいるのが現状である。そこで、今回は分子生物学の研究者との交流を目的としたシンポジウムを企画した。

 カラベリー結節は大臼歯の歯冠形質の中で最も古くから研究されてきたもののひとつである。本シンポジウムではカラベリー結節に焦点を当て、咬頭形成の分子メカニズムがマクロの形態とどのように関わっているかを考察したい。

 金澤英作(日大・松戸歯)はイントロダクションを兼ねて、人類学におけるカラベリー結節の意義を紹介する。田畑純氏(鹿児島大・歯)には咬頭形成の分子メカニズムに関する最新の話題を提供いただく。近藤信太郎(昭和大・歯)はカラベリー結節と歯の大きさという形態学的な結果の発生学的な解釈を試みた。中山光子氏(日大・松戸歯)には染色体異常とカラベリー結節の関係から、カラベリー結節の遺伝的な解析をご紹介いただく予定である。


シンポジウム4  S4−1

歯の人類学におけるカラベリ結節の役割

金澤英作(日大・松戸歯・解剖人類形態)

The role of Carabelli’s trait in dental anthropology

KANAZAWA, E.

 

 歯の形態学においてカラベリ結節ほど良く知られた学名は無いと思われる。このオーストリアの歯科医師の名を冠した小さな形質は現生人類集団によって出現頻度が異なることから大きな注目を浴びた。一方、この形質は系統発生的には初期霊長類などに見られる歯帯由来のものとされ、ヒト以外の霊長類にも見られることが報告されてきたが、特に人類進化の中で大きさと頻度を増してきたという特異な形質でもある。個体発生学的にはハイポコーンの発達度や歯冠全体の大きさとの関連が指摘されているが、決着を見ていない。本発表ではカラベリ結節の最近の研究を紹介するとともにこの形質が歯の人類学に与えた多くの課題を検証する。

 

 

シンポジウム4  S4−2

咬頭形成の分子メカニズム

田畑純(鹿児島大学・大学院医歯学総合研究科・歯科機能形態学分野)

Molecular mechanism of cusp formation in tooth

TABATA, M.J.

 

 発生過程の歯を歯胚(しはい)といい、将来の歯ができる場所に歯の数だけ現れる。そして、開始期・蕾状期・帽状期・鐘状期と呼ばれる発生段階を経て、単純な形だったものがより複雑になり、より大きくなって、歯冠が完成する。歯胚は帽状期まではどれもほとんど同じ形であるが、鐘状期から歯種の違いが明確になっていくのは大変興味深く、歯の形態異常や形態進化はまさしくこの発生過程の部分的変更の結果であると思われる。そこで、こうした歯胚の発生過程の中でも、咬頭形成に関わると思われる発生実験の結果を示しながら、咬頭形成の分子メカニズムについて考察したい。

 

 

シンポジウム4  S4−3

カラベリー結節は大きい歯に現れる

近藤信太郎(昭和大・歯・口腔解剖)

Larger molar crowns are more likely to display Carabelli cusps

KONDO, S.

 

 カラベリー結節の発達程度によって上顎第一大臼歯の大きさがどのように変化するか分析した。咬合面観の写真上で歯冠近遠心径・頬舌径と各咬頭の面積を計測した。カラベリー結節の発達程度を4段階に分け、各段階における歯の大きさを比較した。その結果、カラベリー結節の発達の良いものほど歯が大きかった。大きさの違いはハイポコーン面積で顕著であった。しかし、カラベリー結節とプロトコーンの面積を分けて計測できるほどカラベリー結節が発達した場合には、カラベリー結節がみられない場合よりプロトコーン面積は有意に小さかった。これらの結果を二次エナメル結節に関する発生学的な知見に基づいて考察したので報告する。


シンポジウム4  S4−4

性染色体異常とカラベリ結節の関係について

○中山光子1Raija Lahdesmaki2、金澤英作1Lassi Alvesalo2 1日本大学松戸歯学部解剖人類形態学講座、2 オウル大学矯正学講座)

The relationship between Carabellis trait and sex chromosome abnormality

Nakayama, M., Lahdesmaki, R., Kanazawa, E., Alvesalo, L.

 

 ヒトには22対の常染色体と1対の性染色体が存在するが、まれに性染色体の異常型が出現する。代表的なものとして45, X female (Turner Syndrome)47,XXYmale (Klinefelter Syndrome)47,XYY male (XYY Syndrome)47,XXX female (Super female Syndrome)などが挙げられ、それぞれに特徴的な形態が現れることがわかっている。本発表では、オウル大学(フィンランド)が所蔵するKvanntiコレクションから45,X female (ターナー症候群)を中心に性染色体とカラベリ結節の関係を紹介する。

 


シンポジウム5

 

Auxology分科会シンポジウム

子どもの発育と身体活動

 

11月5日(土)09:30〜11:30  C会場

 

オーガナイザー

佐竹隆(日本大学松戸歯学部)

 

 

趣旨説明

佐竹隆(日本大学松戸歯学部)

 

 最近の子どもの遊びの傾向は、集団や屋外での運動をともなう遊びは少なく、テレビゲームなど室内での個人遊びが多くなった。また、地域や家庭内でのコミュニケーションのあり方も変化した。特に、子どものコミュニケーション手段にも携帯電話が頻繁に使われ、その急速な普及は子どもの社会性の発達に大きな影響を与えていることは想像に難くない。また、合計特殊出生率も相変わらず低下し少子高齢化がさらに進行している。また、諸外国と同様、治安の悪化も懸念される問題になりつつある。このように、子どもをとりまく社会環境は急激に変化し、それにともない子どもの生活スタイルも急速に変化している。

 このような状況のもと、子どもの体格は向上したが、体力や運動パフォーマンスは以前より劣り、さらに、子どもの生活習慣病も懸念されるようになった。このような子どものからだに関する問題の原因の一つとして、身体活動量の減少が挙げられている。ヒトのからだは、元来、動くようにできており、動くことに適した身体構造と生理機構が備わっている。したがって、ヒトには適切な身体活動量がいろいろな意味で必要である。発育期の子どもにとってはなおさらのことであろう。そこで本シンポジウムでは、からだと身体活動の関係、子どもと地域の関わりや身体活動の関係などについての文献による研究や調査による研究の成果を踏まえ、「子どもの発育と身体活動」について再考したい。


シンポジウム5  S5−1

子どもの発達段階にふさわしい身体活動

今井重孝(青山学院大学文学部教育学科)

Physical activity proper for each developmental stage of children

IMAI, S.

 

 世界で900校近く存在し現在増加中のシュタイナー学校は、そのユニークな教育方法と卒業生のすぐれた資質において有名である。この学校の教育を支える発達段階の考え方は、子どもの年齢にふさわしい身体活動のあり方を考える上で示唆に富む。0歳から7歳までは、模倣という身体活動によって、意志、感情、思考の教育がなされ、7歳から14歳までは、芸術的活動を中心として、意志と思考の教育がなされ、14歳以降になってはじめて、思考への働きかけを中心として意志と感情に働きかける教育がなされるべきというシュタイナーの発達段階論が、脳科学者の最新の主張とも整合的であることを示し、発達にふさわしい身体活動のあり方について論じる。

 

 

シンポジウム5  S5−2

個別と全体を同時に生きる身体−日本の祭りから

和崎春日(名古屋大学・文学研究科)

Organic juxtaposition of individual human body and cosmic whole -from Japanese Daimonji festival

WAZAKI, H.

 

 身体を動かすことは、一つの目的のみに整合的に収斂するのではない。あることをしようとすると、それは違う目的まで達成してしまう。身体を動かすことは、いろんな意味を同時に充たす行為である。だから、「遊ぶ」ことは、「学ぶ」ことに根源的に結びついている。また、ある人の身体行為は、その人の合目的性からその人に帰属しているように思われがちだが、実は人々のあり方と結びついてる。つまり、人々の行為は、社会や住んでいる街のあり方と結びつき、「あの世」や「神なる世界」や宇宙と結びついている。その身体と都市と宇宙との有機的な結びつきを、日本の代表的な祭り・京都「大文字五山送り火」から考える。

 

 

シンポジウム5  S5−3

子どもにおける身体活動量評価の必要性と現状

田中茂穂(国立健康・栄養研究所 健康増進研究部)

Techniques for evaluation of physical activity in children

TANAKA S.

 

 これまで身体活動量の評価法として、質問紙や生活活動記録、あるいは歩数計・加速度計・心拍計などが主に利用されてきた。しかし、特に身体活動に占める遊びの比重が大きいと考えられる幼児においては、簡便法を用いて身体活動レベル(=総エネルギー消費量/基礎代謝量)を正確に推定することは困難である。標準の身体活動レベルが、第六次改定の栄養所要量(1999年)で成人より子どもの方が大きかったのに対し、「日本人の食事摂取基準(2005年版)」で逆転したのは、よい例である。

 特に、肥満解消等のためエネルギー消費量が重要な場面では、歩行やスポーツに限定されないあらゆる種類の身体活動を把握する方法が必要である。


シンポジウム6

 

頭の骨はなぜ変わる−変異・変化の要因分析の現状−

 

11月6日(日)10:00〜12:00  B会場

 

オーガナイザー

溝口優司(科博・人類)

 

 

趣旨説明

溝口優司(科博・人類)

 

 動物の頭部・顔面部の形態の違いには、しばしば、その生息環境の違いや行動パターンの違いを考えると、なるほど、と納得のいくものもある。しかし、同じホモ・サピエンスという1つの種の頭・顔面部形態の変異・変化には、まだ原因があまりよく分からないものがたくさんある。例えば、比較的短期間のうちに頭部形態が変化する短頭化・長頭化現象の原因は、未だに、多くの候補は挙げられてはいるものの、特定されたとは言いがたい。

 とはいえ、子ども人骨を含む資料の蓄積のほか、昨今の3次元計測法、3次元データ解析法、統計量のコンピュータ・シミュレーション的有意性検定法などの発達によって、短頭化・長頭化現象を含む、頭・顔面部の変異・変化に関する研究は着実に進んでいる。未だに各地域・各時代の記載的研究が終わったわけではないが、それらの間の変異・変化の原因とメカニズムの解明は並行して行なわれている。

 奇しくも、本シンポジウムは、短頭化現象が日本で初めて客観的に確認された1956年から数えてちょうど50年後に企画されることになったが、この50年の間に短頭化現象の原因候補はどこまで絞り込まれたのか。頭蓋の形態変異・変化に関して、どのような新知見が得られているのか。現在、実際に頭部・顔面部形態の研究に携わっている研究者、とくに最近この分野に現われた新進気鋭の若手研究者にも集まってもらって、頭蓋形態研究の現状を再認識すると同時に、今後の分析の可能性なども探りたい。そう考えたのが、本シンポジウムを企画した理由である。
シンポジウム6  S6−1

日本列島住民における顔面平坦度の地域性と時代変化について

○川久保善智(鳥取大・医・形態解析)、井上貴央(鳥取大・医・形態解析)、百々幸雄(東北大・医・人体構造学)

Geographical variations and temporal changes in facial flatness in the peoples of Japan

KAWAKUBO, Y., INOUE, T., DODO, Y.

 

 日本列島住民の顔面は時代によってその平坦性が大きく変化してきたことが関東地方や九州の古人骨資料をもとにした研究によって明らかにされている。しかしこれらの研究は地域や時代が限定されており、包括的な議論をする段階には至っていない。今回は顔面頭蓋の平坦性をあらわす指標の一つである顔面平坦度計測(前頭骨、鼻骨、頬上顎骨平坦度示数)を用いて、日本列島各地の古人骨資料が比較的豊富な地域の時代変化について詳細な検討を行った。その結果、地域ごとに時代変化の傾向に大きな違いが見出された一方、すべての地域に共通した一定の方向性も認められた。

 

 

シンポジウム6  S6−2

頭部顔面部における幅径と長径の変化

竹内修二(浜大・健プロ・心身)

Changes of length and breadth in cranial and facial skull

TAKEUCHI, S.

 

 生体計測値より見た頭の形の時代的な変化は、頭長より頭幅の方がより大きく増えている事に起因していると考えられる。すなわち、1942184.4mmであった頭長は1992191.1mm3.6%増大したが、頭幅は155.1mmから163.2mm5.2%の増大であった。頭部のみでなく上顔部の頬骨弓幅も6.6%増大していた。

 この部位による変化の違いを、頭蓋骨の計測値をもとに、脳頭蓋と顔面頭蓋、それぞれの幅径と長径の間に相関があるかによって、関連性を調べてみた。

 変化の大きな頭幅と比較し、頭長は相関が認められなかった。同様の幅径である頬骨弓幅とでは相関が認められた。しかし、顔面部の上顎幅とは相関が認められなかった。

 

 

シンポジウム6  S6−3

成長の観点から見た短頭化現象について

岡崎健治(九州大学院・比較社会文化・基層構造)

On the brachycephalization viewed from growth

OKAZAKI, K.

 

 短頭化現象の要因については様々な仮説が提出されているものの未だ明確な答えは得られていない。遺跡から出土する未成人骨を用いて古代人の成長を比較した結果、短頭傾向が強い近現代人の幼児では大人以上に短頭(過短頭)であるのに対し、長頭傾向が強い中世人は、かなり幼い年齢から既に成人と同程度長頭であった。したがって、短頭集団と長頭集団は、かなり異なる頭形の成長パターンをもつ可能性が高い。この頭形の成長パターンを決定する要因の一つとして、幼児期の栄養状態、特に離乳期と離乳食の時代変化に注目し、その可能性について検討したい。

 

 


シンポジウム6  S6−4

日本人の顔面3次元形状の世代差

○河内まき子(産総研・デジタルヒューマン)、持丸正明(産総研・デジタルヒューマン)

Intergeneration differences in the Japanese 3D face shape

KOUCHI, M., MOCHIMARU, M.

 

 日本人の顔面3次元形状の世代差を検討するため、1967-83年生れ117名(男56、女61、約26歳)、1917-41年生れ200名(男女各100、約69歳)を対象に、顔面形状を解剖学的特徴点に基づいてモデル化し、形態距離行列を多次元尺度法で男女別に分析した。6次元解(RSQ=0.943、女0.959)の各軸を解釈するため、各軸上で±3S.D.の範囲にある仮想形態を算出した。MDS得点でみると高齢層の方が顔面の上下高が大きく、ポゴニオンが後方にあり、顔面が耳眼面に対して前傾し、鼻根部が扁平な傾向があったが、平均形状の比較ではこの傾向は明瞭でなかった。手計測寸法の結果もあわせ、軟部組織および骨格の加齢変化、骨格の時代変化の観点から、世代差の要因について考察する。

 

 

シンポジウム6  S6−5

先史・原史・中世・近世・現代日本人標本に基づく脳頭蓋・四肢骨計測値間の生態学的相関

溝口優司(科博・人類)

Ecological correlations between neurocranial and limb bone measurements based on Japanese samples from prehistoric, protohistoric, medieval, early modern, and modern times

MIZOGUCHI, Y.

 

 短頭化現象の原因を特定するために、これまで、頭蓋と体幹・体肢骨の計測値の間の群内での相互相関を調べてきた。その結果、頭蓋最大幅は頬骨弓幅など、顔面頭蓋の一部と連動して変異するが、体幹・体肢骨とはあまり関係がなく、逆に、頭蓋最大長は他の頭蓋計測値とはあまり関連を持たないが、椎骨椎体や主な四肢骨、骨盤幅などと強い関連を示すことが明らかにされた。しかし、これらは群内での傾向である。それゆえ、本研究ではさらに脳頭蓋と四肢骨の計測値の間の群間での相互相関を順位相関係数によって調べたところ、やはり群内の場合と同様、頭蓋最大長の方が最大幅よりも多くの四肢骨計測値と有意な関連を持っていることが示された。


シンポジウム7

 

古人骨研究のさらなる可能性

 

11月6日(日)13:00〜15:00  A会場

 

オーガナイザー

海部陽介・篠田謙一(国立科学博物館・人類)

 

 

趣旨説明

海部陽介・篠田謙一(国立科学博物館・人類)

 

 日本の古人骨コレクションは、世界的に見ても第一級のものと言える。過去100年以上にわたる先人たちの努力のおかげで、各地の博物館や大学には、縄文時代から現代まで、数千年間にわたる様々な時代の連続した古人骨コレクションが保管されている。この恵まれた環境の中、これまで日本の古人骨研究は、主に日本人の起源という大テーマを中心に展開されてきた。しかし古人骨から引き出し得る情報は、実際にはもっと多岐に渡っており、その多くは日本ではまだ十分に研究されていない。本シンポジウムでは、古人骨の様々な研究を行っている研究者に、それぞれの分野における近年の研究動向を広い視点から紹介してもらい、将来の新たな発展的研究の方向性を探る。

 本シンポジウムには、もう1つの重要な目的がある。研究分野の細分化や分析手法の複雑化が進む今日の人類学においては、研究者といえど、諸分野の現状に通じることは容易でなくなってきている。しかし、人類学が進んでいる全体的な方向性を常時把握し、意義ある新しい研究課題を見つけ、有効な研究法を発想し、またより機動力のある研究協力を実現するためには、どうしても各人が人類学の広範な最先端知識を共有している必要がある。個人の研究発表とは性格を異にする今回の企画が、そうした環境づくりの一助となれば、幸いである。

 


シンポジウム7  S7−1

古人骨の化学分析で何ができるか

米田穣(環境研・化学環境)

Future directions of bone chemistry studies

YONEDA, M.

 

 骨に含まれる元素は、食物を通じて取り込まれるので、過去の集団の食習慣を復元する研究に用いられている。しかし、骨の化学指標は食性だけではなく、過去の人々の生活や環境に関する様々な情報も提示してくれる。例えば、集団内の個体間で比較することで、食習慣の違いに表れる社会構造を検出することができるし、年齢によるタンパク源の変遷を調べることで離乳時期の推定も可能である。また、個体内での化学成分の時間変化を検出できれば、移住に関する情報を知ることができる。これは婚姻習慣の検証に応用が可能だ。本発表では、内外の事例を踏まえながら、骨の化学分析から得られる食性以外の様々な情報について、その可能性を議論する。

 

 

シンポジウム7  S7−2

古人骨のDNA分析から得られる情報

篠田謙一(国立科学博物館・人類)
Using ancient DNA to explore the past
SHINODA, K.

 古代試料にわずかに残るDNAの分析は1990年代から本格的に実施され、これまでに多くの研究が行われてきた。その成果は大きく3つに分類できる。ひとつは遺跡内部の血縁関係に関する情報の提供で、主として考古学的なコンテクストの中で解釈されるものである。二つめは、ヒトの移動や拡散、集団の遺伝的な性格を明らかにするもので、これまで人類学の分野で形態学的な情報に基づいて研究されてきた系統論に新たな情報を提供する。三つ目は古人骨に残る病原菌の分析で、古病理学の新たな研究方法となっている。今回の発表では、それぞれの研究を概観し、結果を解釈する際の問題点や今後の展開について解説する。

 

 

シンポジウム7  S7−3

人類史研究における年代学

近藤恵(お茶の水女子大・生活科学)

Chronology in human evolutionary studies

KONDO, M.

 

 人類史を解明する研究において、様々な事象の証拠となる化石骨資料の、個々の年代や順序を明らかにすることは、基軸となる情報として不可欠である。近年の年代測定法の目覚ましい発展により、測定の実効性は確実に広がっており、様々な分野に貢献している。特に日本の人骨資料については、ほとんどすべてが放射性炭素年代測定法の測定可能な年代範囲に収まるため、大変恵まれた状況にある資料群であると言える。しかしながら、数値年代は明解な値が提示されるゆえ、取り扱いには危険が伴い、注意が必要である。そこで、数値年代の持つ意味、さらに相対年代判定の有用性について言及し、総合的な検討による編年の重要性について述べる。

 


シンポジウム7  S7−4

古人口学の可能性

五十嵐由里子(日本大・松戸歯・解剖)

Possibilities of paleodemography

IGARASHI, Y.

 

 遺跡から出土した人骨の性別と年齢を推定することにより、遺跡集団の人口構造(男女年齢別死亡数)や平均余命を推定することができる。このことは、当時の生活環境や栄養条件などを復元するための手がかりともなりうる。約40年前に小林和正は、縄文時代と江戸時代の人口構造を復元したが、その年齢推定値は低すぎると指摘されている。新しい年齢推定方法が開発されている現在、縄文時代から江戸時代にいたる各時代の人口構造を改めて推定することには大きな意味がある。さらに、骨盤上の妊娠痕による出産数の推定も合わせて行えば、今まで手つかずであった人口動態の推定も可能となる。本発表では、古人口学の現状と可能性について紹介する。

 

 

シンポジウム7  S7−5

未成人古人骨標本からわかること
○近藤修、武田摩耶子(東京大・人類)、岡崎健治(九大・比較社会文化)、藤澤珠織(京都大・自然人類)
Immature skeletal remains of past populations: what can they tell us?
KONDO, O., TAKEDA, M., OKAZAKI, K., FUJISAWA, S.

 

 未成人骨格から得られる情報は成人骨格とは異なる見方を与えてくれる点で有用である。人口構成、健康状態といった集団のライフサイクル・生活復元に役立つ以外に、骨格資料の大きさ(計測値)より成長を復元し、生活環境との関連が議論されてきた。一方、形態学的側面からは、古人骨集団間にみられる形態差を個体発生の観点からとらえ、さらには形態の成因を探る糸口としようとする試みがなされている。我々は日本古人骨より縄文、弥生人を中心に、成長、形質発現パターン(シェイプ変化)を探るためデータを集めている。今回途中経過を報告しつつ、今後の展開を議論する。

 

 

シンポジウム7  S7−6

時代変化する形質とその原因

海部陽介(国立科学博物館・人類)

Temporally changing traits and their causes

KAIFU, Y.

 

 日本では、先人たちの努力により各時代の古人骨コレクションが充実するようになってから、骨格形質の時代変化について様々な研究がなされてきた。主な例には、身長、頭型、頭骨の形態小変異、顔面の凹凸度、歯槽性突顎、下顎骨形態、歯のサイズ、咬耗などがある。こうしたデータは、これまで日本人形成史を探る文脈で解析されることが多かったが、一方で、環境に対するヒトの身体の反応について知る上でも重要な意味を持っている。本発表では、こうした研究をさらに促進することの可能性と意義について検討し、さらにそのデータ解釈上有効かもしれない新しい概念として、1990年代に体系化された進化医学(ダーウィン医学)について触れる。


シンポジウム8

 

市民公開講座

言語と遺伝子

 

11月6日(日)15:00〜17:00  A会場

 

オーガナイザー

斎藤成也(国立遺伝学研究所)

 

 

趣旨説明

斎藤成也(国立遺伝学研究所)

 

 人類進化の問題は、他の生物の進化と同様に、遺伝子の変化としてとらえることができる。一方で、人間は遺伝子と直接関係のなさそうな「文化」というものを有する。その最たるものが言語であろう。ところが、遺伝子と言語には密接なつながりがある。そこで本シンポジウムでは、両者の関係について、長期的進化と短期的進化の両側面について論じることにした。

 人類の特殊性を考えるとき、もっとも重要なもののひとつに、言語能力がある。なぜヒトだけが話すことができ、ヒトと進化的に近縁な類人猿ですら話すことができないのだろうか?逆に、言語をもっと広く考えたら、ヒト以外の生物でも言語能力が部分的にそなわっているのだろうか?このような言語起源の問題について、鳥類を用いたユニークな研究を進めている岡ノ谷一夫氏が論じる。

 直立歩行をはじめとする他の重要なヒト独自の形質と同様に、言語能力もヒトの系統で生じた一連の突然変異によって遺伝的基礎ができたと考えられる。最近、言語に深く関与するのではないかとされるFOXP2遺伝子が発見された。 この遺伝子の進化解析に関与した北野誉氏が、その研究結果について論じる。

 以上は長期的進化の面から、言語能力の起源についての話だったが、今度は短期的進化の観点から、アジアにおける人類の言語と遺伝子について考えてみよう。東ユーラシア人というまとまりに含まれる多数の人類集団が有する言語 の中でも、中国語はユニークであると考えられてきた。本当にそうなのかどうか、つまり中国語と周辺言語とのつながりの有無について、遠藤光暁氏が論じる。最後に、日本列島に在住する様々な人間集団の遺伝的近縁性と言語的近縁性について、本シンポジウムを企画した斎藤成也が、これまでの研究を概説する。

 以上の4講演を通して,言語と遺伝子の関係について、少しでも理解が深まれば幸いである。
シンポジウム8  S8−1

言語を可能にする生物学的前適応

岡ノ谷一夫(理研・脳セ・生物言語)

Biological pre-adaptations for Language

OKANOYA, K.

 

 言語はヒト固有の形質であるが、言語を可能したトリビアルでない下位機能は、ヒト以外の動物にもその萌芽が見られる。ここでは、1)音声学習、2)参照的象徴、3)行動の時系列規則ついて、それぞれがどのような前適応として進化しえたのかを考察する。1)は、泣き声で養育者を制御することが、それによる捕食の危険を凌駕し、音声制御の解剖学的構造が強化されたという説(産声起源説)、2)は血縁淘汰とマインドリーディングにより共通なシンボルを使う行動が進化したという考え、3)は性淘汰により恣意的な行動系列を制御するシステムが進化したという考え(文法の性淘汰起源説)を説明する。

 

 

シンポジウム8  S8−2

発話と言語に関与する遺伝子FOXP2の分子進化

北野誉(山形大・医・法医)

Molecular evolution of FOXP2, a gene involved in speech and language

KITANO, T.

 

 近年、英国のAnthony Monacoらのグループは、家族の多くに独特の言語障害がみられる珍しい3世代にわたる英国の家系(KEファミリー)の遺伝子の連鎖解析を行ない、7番染色体の特定領域にその原因遺伝子を同定し、FOXP2と名付けた。FOXP2遺伝子は、フォークヘッド(ウイングドヘリックス)型転写因子と考えられるタンパク質をコードしており、それは、DNAに結合して特定の遺伝子の転写を促進すると考えられている。また、この遺伝子はマウスからヒトまでほとんど変化がなく、非常に保存されていることが示された。今回は、このFOXP2遺伝子の進化を中心に、発話と言語と遺伝子との関係を紹介する。

 

 

シンポジウム8  S8−3

中国語と周辺言語との系統関係

遠藤光暁(青学大・経)

Genetic relationships between Chinese and its surrounding languages

ENDO, M.

 

 中国語はシナ・チベット語族の中の一つの言語群であり、特にチベット・ビルマ語系と密接な系譜関係を持つものとされている。更にタイ・カダイ諸語、ミャオ・ヤオ諸語などの中国・東南アジアの諸言語との間に語彙・音韻の対応ないし類似が存在するとされているが、他方文法(形態論・構文論)面の相違点も小さくない。近年になってフランスのサガールが中国語とオーストロネシア諸語とが密接な系統関係を持つとする説を提唱しており、その論拠はなかなか説得的である。本発表ではこうしたユーラシア大陸東部の諸言語の系統関係と言語接触によってもたらされた共通の類型論的特徴について概観する。

 


シンポジウム8  S8−4

日本列島集団の遺伝的・言語的近縁性

斎藤成也(国立遺伝学研究所)

Genetic and linguistic affinifty of human populations in Japanese Archipelago

SAITOU, N.

 

 日本列島には、過去から現在にいたるまで、ユーラシア大陸からいろいろな経路を使って様々な人々が移住してきた。このため、列島内の地域的変異の大部分は移住した人々とその年代、さらにその後の列島内での移住パターンによって説明できるかもしれない。遺伝的にみてもっとも大きな列島内変異は、アイヌ人と他の日本列島人のあいだにあるが、沖縄人もやや特殊な位置を占める。本講演では、日本列島およびその周辺の人類集団の遺伝的多様性をまず概観する。特に、最近のDNAレベルにおける研究について紹介する。つぎに、これらの集団で話されている言語の多様性を概観した上で、まだ定説のないそれらの言語の系統関係について諸説を紹介し、遺伝子から推定される集団間の近縁性との関係を論じる。



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