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一般口演1 11月4日(金)10:00〜11:48 A会場

 

 

口演 O1−1  11月4日(金)10:00〜10:12

新世界ザルにおける色覚の多様性:野生群に対する遺伝子型判定と行動観察

○平松千尋、筒井登子、松本圭史、河村正二(東大・新領域)

Color vision polymorphism in New World monkeys: Genotyping and behavioral observation for wild populations

HIRAMATS, C., TSUTSUI, T., MATSUMOTO, Y., KAWAMURA, S.

 

 多くの新世界ザルには赤緑視物質遺伝子の多型により色覚に大きな種内変異が存在し、適応進化の格好の研究対象である。我々は前回、コスタリカ共和国・サンタロサ国立公園に生息するオマキザル2グループ(約50個体)とクモザル1グループ(約25個体)を対象とし、各個体の糞から抽出したDNAを用いて調べた各赤緑視物遺伝子の遺伝子頻度を報告した。今回、色覚多様性の適応的意義の理解に向けて現在行っている、色覚型判定された個体の行動観察および視覚対象物の色測定や環境光測定などの生態学的研究の経過について報告する。

 

 

口演 O1−2  11月4日(金)10:12〜10:24

ヒト・類人猿間における不安関連遺伝子の比較

○西岡朋生(COEプログラム「心とことば‐進化認知科学的展開」PD)、宮平博史(東京大学・理・人類)

Study on anxiety-related genes in hominoids

NISHIOKA, T., MIYAHIRA, H.

 

 類人猿を対象として、神経伝達物質遺伝子の多型の性格への影響を明らかにすることを目的とした研究を行っている。情動における「不安」に関連し、ヒトにおいて精神疾患等との関連の示唆されている遺伝子群(ニューロペプチドY・ニューロペプチドY1受容体・コレシストキニンB受容体・α2Aアドレナリン受容体)について、ヒト・チンパンジー・ゴリラ・オランウータン・テナガザルを対象にエキソンと遺伝子上流域約500bpの塩基配列を決定し解析した。これら不安関連遺伝子は、異種間でのアミノ酸置換率は小さく、ヒトと近縁な類人猿を通して良く保存されていた。機能的に重要な働きをしているために純化淘汰されていると考えられる。

 

 

口演 O1−3  11月4日(金)10:24〜10:36

テナガザル科におけるアグチシグナルタンパク質遺伝子の消失

○中山一大(東京大学21世紀COE「心とことば-進化認知科学的展開」)、石田貴文(東大・理・生物)

The loss of the agouti signaling protein gene in the gibbons

NAKAYAMA, K., ISHIDA, T.

 

 アグチシグナルタンパク質(ASIP)はメラノコルチンレセプターのアンタゴニストで、色素形成、エネルギー代謝などの様々な生理機能の制御に関与している。各種霊長類を対象とした比較ゲノム解析の結果、テナガザル科ではASIP遺伝子(ASIP)が、10万塩基対におよぶ欠失によって消失している事が明らかになった。また、他の真猿類から単離したASIPの分子進化パタンを解析したところ、ASIPは強い機能的制約にさらされている事が明らかになった。これは、ASIPが霊長類の進化の過程で重要な機能を担い続けており、ASIPの消失がテナガザルの生物学的特徴の形成に重要な役割を果たした可能性を示すものである。


口演 O1−4  11月4日(金)10:36〜10:48

Alu挿入配列と21番染色体上SNPsを用いた東アジアヒト集団の遺伝的関係の解明

◯石橋みなか(総研大・生命科学・遺伝学)、斎藤成也(国立遺伝学研究所・集団遺伝、総研大・生命科学・遺伝学)

Analysis of human population relationships in Eastern Asia by using Alu insertion sequences and SNPs on chromosome21

ISHIBASHI, M., SAITOU, N.

 

 東アジアヒト集団における遺伝的関係の推定には、ミトコンドリアDNAの配列やマイクロサテライト多型が主に用いられてきた。これらのマーカーは変異が起こりやすく、多型を観察しやすい領域である。しかしながら、集団の関係をより詳細に推定するためには、性質の異なる多型マーカーを考慮する必要があると考える。私達は、核DNAの常染色体上に散在するAlu挿入配列と、21番染色体上のSNPsを多型マーカーとして用い、東アジアのヒト集団の遺伝的関係を詳細に解明しようと考えている。実験のデータから明らかになった東アジアヒト集団の関係について報告したい。

 

 

口演 O1−5  11月4日(金)10:48〜11:00

HLA polymorphisms in four populations in southwestern China

Shi, L.1,2, Ogata, S.3, Xu,S.B.1, Ohashi, J.2, Yu, J.K.1Huang, X.Q.1, Yu, L.1, Shi, L.1, Sun, H.1, Lin, K.1, Chu, J.Y.1, Tokunaga, K.21Institute of Medical Biology, Chinese Academy of Medical Science, Kunming, China 2Department of Human Genetics, Graduate School of Medicine, University of Tokyo, Tokyo, Japan. 3Medical Research Institute, Tokyo Medical and Dental University, Tokyo, Japan

 

 We studied the HLA polymorphisms in the Naxi, Jinuo, Wa and Yunnan Han populations in Yunnan province of southwest China. HLA-A, -B, and -DRB1 loci were detected using DNA typing method and the frequencies of each alleles and A-B-DRB1, A-B, and B-DRB1 haplotypes were estimated. Some dominant alleles were commonly found in the four populations including A*11, A*02, A*24, B*15, DRB1*1501 and DRB1*1202. On the other side, some populations have different dominant alleles such as B*1532 in the Wa population and B*1301 in the Jinuo population. Some common haplotypes were shared in all populations including A*11-B*15, A*11-B*13 and B*15-DRB1*1201. A*11-B*15-DRB1*1202 was shared in the Naxi, Jinuo and Wa populations and A*110101-B*1301-DRB1*120201 was shared in the Jinuo and Wa populations. Phylogenetic tree and principal component analyses comparing with other populations in Asia are also presented.

 

 

口演 O1−6  11月4日(金)11:00〜11:12

中国少数民族・毛南族における、HLA遺伝子多型解析

○尾形早映子(東医歯大・難治研、警視庁科学捜査研究所)、Li Shi(中国医学科学院医学生物研究所)、大橋順(東京大院・医・人類遺伝)、村松正明(東医歯大・難治研)、Jia You Chu(中国医学科学院医学生物研究所)、徳永勝士(東京大院・医・人類遺伝)

Polymorphisms of HLA genes in Maonan Minority population in China

OGATA, S., SHI, L.., OHASHI, J., MURAMATU, M., CHU, J.Y., TOKUNAGA, K.

 

[目的]中国南部、広西壮族自治区に居住する少数民族、毛南族のHLA多型を検討する。[方法]毛南族非血縁成人108人について、蛍光ビーズ法を用いたDNAタイピングによりHLA-A、及びHLA-B座の遺伝子型を決定した。[結果]HLA-Aでは、A*110101A*020301A*0207A*24020101が高頻度で存在し、HLA-Bでは、B*1301B*1502B*4001B*4601が高頻度で認められた。ハプロタイプ解析では、A*0207-B*4601A*110101-B*1301A*110101-B*4001が高頻度を示した。[考察]本集団は、東アジア南部に共通する特徴を有していた。今後、HLA-DRB1遺伝子座も解析し、合わせて他のアジア各地域の集団との遺伝的近縁性について検討する予定である。


口演 O1−7  11月4日(金)11:12〜11:24

狩猟採集民“ムラブリ”の文化的先祖帰り

○太田博樹(東京大・新領域・先端生命)、Brigitte Pakendorf(マックスプランク研・進化人類)、Gunter Weiss(ハインリヒ大・情報), Arndt von Haeseler(ノイマン数理研)、Surin Pookajorn(シラパコン大・考古)、Wannapa Settheetham-Ishida(コンケン大・医)、Danai Tiwawech(タイ国立がんセンター)、石田貴文(東京大・理・人類)、Mark Stoneking(マックスプランク研 ・進化人類

Cultural Reversion of Hunter-Gatherer Group “Mlabri”

Oota, H., Pakendorf, B., Weiss, G., von Haeseler, A., Pookajorn, S., Settheetham-Ishida, W., Tiwawech, D., Ishida, T., Stoneking, M.

 

 狩猟採集は、人類が農耕を発達させる以前のライフスタイルのモデルとして、一般に見なされている。例えばアフリカのクンやピグミーは、周辺の農耕民族に見つからないmtDNAタイプを多く持ち、集団内遺伝的多様度が低い。私たちが分析した北部タイ狩猟採集民族ムラブリは、驚くべきことにmtDNA配列にバリエーションが全くなく、Y染色体と核STR多型も著しく多様性が低かった。また、ムラブリが500800年前というごく最近、ごく少人数から創始し、しかも彼らが農耕民から狩猟採集民へ「先祖返り」した可能性が示唆された。このように、現生の狩猟採取民族が必ずしも「農耕以前のライフスタイル」である必要がないこと議論する。

 

 

口演 O1−8  11月4日(金)11:24〜11:36

数理モデルを用いたオスの子育て及びメスの多数回交尾の進化に関する考察

○関元秀、若野友一郎、井原泰雄(東京大・理・人類)

A theoretical study on the evolution of male parental care and female multiple mating

SEKI, M., WAKANO, J.Y., IHARA, Y.

 

 Male parental care is often seen in some primate species including humans, although it is uncommon in other mammals. To discuss the evolution of paternal care, female multiple mating cannot be ignored because polyandry reduces confidence in paternity. To investigate the evolution of mating system, mathematical models focusing on paternal care and polyandry have been examined. Paternal care can fix when its effect on offspring survival is sufficiently large compared with the resulting loss of mating opportunities. Female multiple mating may evolve when paternal care is effective enough and can coexist with male parental care at equilibrium. We extended the model to incorporate such strategies that (1) monogamous females prefer care-giving males, and (2) care-giving males are likely to care for offspring of monogamous females. Evolutionary dynamics exhibit complex behavior. Paternal care does not always evolve even when these preferences exist.

 

 

口演 O1−9  11月4日(金)11:36〜11:48

文化進化と出生率の低下:斜行伝達率のばらつきの効果

井原泰雄(東京大・理・人類)

Cultural evolution and fertility reduction: possible roles of variation in the rate of oblique transmission

IHARA, Y.

 

 The radical decline in fertility that has been observed repeatedly in industrializing societies (i.e., the demographic transition) is an evolutionary conundrum because in the course of it individual members of the societies apparently reduce their reproductive success. Darwinian cultural evolution, which does not necessarily maximize reproductive success of individuals, may explain the spread of such a maladaptive behavior. Theoretical models have shown that a fertility decline becomes possible when people start to depend heavily on nonvertical compared with vertical cultural transmission in acquiring fertility-related behaviors. These models, however, assumed a homogenous population in which everyone exhibits a similar dependence on nonvertical transmission, and consequently failed to explain the variation within a society in the degree of fertility reduction (e.g., the highly educated tend to have fewer children). Extensions are made to the models to examine possible roles of variation within a population in the rate of nonvertical cultural transmission.


一般口演2 11月4日(金)13:00〜18:00 A会場

 

 

口演 O2−1  11月4日(金)13:00〜13:12

縄文人の顔面骨格の形態を虚心に再吟味する

百々幸雄(東北大学・医・解剖)

Reconsideration of the configuration of Jomon facial skeletons

DODO, Y.

 

 演者お気に入りの縄文人頭蓋である青島1号人骨を原点として、宮野104号、若海1号などの縄文人、神恵内アイヌ、港川人骨、本州現代人骨、ホアビン期人骨(ベトナム)、中国東北地方新石器時代人骨、チャンドマン青銅器時代人骨(西モンゴル)、ヨーロッパ現代人骨のなどの頭蓋と類型学的な比較を行い、併せて簡単な数量的な分析も試みた。その結果、縄文人やアイヌをモンゴロイドとかコーカソイドとかにカテゴライズすること自体に問題があるのではなかろうか、という考えに傾きつつある。

 

 

口演 O2−2  11月4日(金)13:12〜13:24

栃原岩陰遺跡出土KA-1頭蓋の形態学的研究

○大谷江里(東京大院・理・進化)、馬場悠男(国立科学博物館・人類、東京大院・理・進化)、香原志勢(立教大名誉教授

Morphological study of Earliest Jomon skull KA-1 from Tochibara Rockshelter, Nagano Prefecture, Central Japan

OHTANI, E., BABA, H., KOHARA, Y.

 

 長野県南佐久郡北相木村に所在する栃原岩陰遺跡から出土した縄文時代早期の人骨群で、唯一顔面を含む頭蓋がほぼ完全な形で保存されているKA-1人骨は、頭蓋の華奢さ、顔面頭蓋の低さ、下顎骨の小ささなど、従来から縄文時代早期人に特有とされてきた形態特徴を顕著に示す一方で、眉弓の発達・鼻根部の陥入が弱いこと、頬骨の前・側方への張り出しが比較的弱いことなど、縄文時代人の一般的特徴とはやや異なる特徴も示す。本研究では、KA-1頭蓋について、新たに修復・復元作業を行った上で、詳細な形態の観察および、旧石器時代から現代までの各時代の集団との比較を行い、その形態的特徴について報告する。

 

 

口演 O2−3  11月4日(金)13:24〜13:36

縄文人、アイヌと他諸国集団の下顎骨形態変異

○重松正仁(佐賀大・医・歯科口腔外科)、石田肇(琉球大・医・解剖)、後藤昌昭(佐賀大・医・歯科口腔外科)、埴原恒彦(佐賀大・医・生体構造機能)

Morphological variation of Jomon, Ainu, and other ethnic subgroups as viewed from mandibular measurements

SHIGEMATSU, M., ISHIDA, H., GOTO, M., HANIHARA, T.

 

 アイヌが縄文人の形質的、遺伝的特徴を強く受け継ぎながらも、縄文時代以降、周辺諸集団の影響を受けた可能性はすでに指摘されている。一方、先の研究から、アイヌがアメリカ先住民ともある程度の形態的類似性を有することが示唆された。本研究では、下顎骨形態における縄文人、アイヌ、他諸国集団の形態変異の関係はどのようであるかを、試験的に調査した。下顎骨形態は、加齢、咀嚼、環境、地域、遺伝によって様々な変化を示すことから、集団間の系譜については言及せず、単にサイズとシェイプ面から、集団間の下顎骨形態類似性や地理的変異を考察した。さらに、先の研究結果と比較し、その妥当性を検討した。


口演 O2−4  11月4日(金)13:36〜13:48

成長初期段階(胎児後期から幼児期)における縄文時代人大腿骨の形態学的研究

水嶋崇一郎(東大・理・人類)

Early developmental morphology of the Jomon femur: late fetal to infant period

MIZUSHIMA, S.

 

 縄文時代人が示す大腿骨の頑丈性は、しばしば彼らの狩猟採集的な生活様式と関連付けて論じられ、力学適応の観点から解釈されてきた。一方で、長骨の断面形状は必ずしも力学的な強さとの対応では説明しきれないことが近年指摘されており、骨形態形成の諸要因に関しての議論が進められてきている。本研究では、成長初期段階(胎児後期から幼児期)に属する縄文時代人(17遺跡、約40標本)と現代日本人(約140標本)の大腿骨を比較することで、両集団の大腿骨長と中央径における二足歩行開始前後の成長様式を提示し、縄文時代人における大腿骨形態形成について一考を加える。

 

 

口演 O2−5  11月4日(金)13:48〜14:00

四肢骨形態における縄文人と現代日本人の地域間変異

瀧川渉(東北大・医・人体構造)

Inter-regional variations of the Jomon and modern Japanese in limb bone metric traits

TAKIGAWA, W.

 

 縄文人の四肢骨形態における地域間変異は詳細に検討されてこなかったため、縄文人と現代日本人の計測データを収集し、対応する6地域間でその様相を比較した。四肢骨長のプロポーションでは両集団とも有意な地域差は認められないが、骨幹部の断面示数では縄文人の方が有意な地域差を示す項目が多く、上腕骨以外の全ての部位で有意差が確認された。また、四肢骨計測値18項目(最大長と骨幹径)を基に縄文人と現代人の各集団間でマハラノビス距離を求め主座標分析を実施すると、縄文人集団の分布の方がより広範囲に渡っていることが提示された。この結果は、四肢骨形態に関する限り、縄文人の方が現代人よりも地域間変異が大きかったことを示唆する。

 

 

口演 O2−6  11月4日(金)14:00〜14:12

北海道縄文・続縄文人骨のミトコンドリアDNA解析

○安達登(東北大・医・人体構造)、篠田謙一(科博・人類)、梅津和夫(山形大・医・法医病態診断)、松村博文(札幌医大・医・解剖)、坂上和弘(東北大・医・人体構造)、大島直行(伊達市噴火湾文化研究所)、百々幸雄(東北大・医・人体構造)

Mitochondrial DNA analysis of the Jomon and Epi-Jomon skeletal remains excavated in Hokkaido, Japan

ADACHI, N., SHINODA, K., UMETSU, K., MATSUMURA, H., SAKAUE, K., OHSHIMA, N., DODO, Y.

 

 北海道の縄文・続縄文人は、その骨形態において時代差や地域差が小さく、かつ弥生時代以降の本土日本人集団とは大きく異なることがわかっている。しかし、北海道縄文・続縄文人の遺伝学的位置づけは未だ明らかでない。今回我々は札幌医科大学所蔵の北海道縄文・続縄文人骨資料、計76体を対象にミトコンドリアDNAを用いた系統分析をおこなった。その結果、北海道縄文・続縄文人の系統の頻度分布は本土日本人を含む現代の東アジア人集団におけるそれとは全く異なっており、ミトコンドリアDNA分析からは北海道縄文・続縄文人の特異性が示唆された。


口演 O2−7  11月4日(金)14:12〜14:24

現代日本人頭骨における鼻・上顎複合体後部と骨鼻咽頭との相互関連性

久保大輔(東大・理・人類)

Interrelationship between the posterior naso-maxillary complex and bony nasopharynx in modern Japanese crania.

KUBO, D.

 

 これまで多くの研究によって前頭蓋窩や中頭蓋窩が顔面頭蓋の形態や配置に及ぼす影響が論じられてきた。その一方で、鼻咽頭領域は脳頭蓋と同等、あるいはそれ以上に鼻・上顎複合体と近接している領域でありながら、鼻・上顎複合体の形態や配置にどのような影響を与えるのかについてこれまで具体的に論じられてこなかった。本研究では、鼻咽頭と鼻・上顎複合体との形態的関連性を明らかにする為の足がかりとして、鼻咽頭腔がある方向に制約を受けると別の方向へ補償的に拡大しているという仮説を現代日本人頭骨を対象に骨計測学的手法によって検証した。その結果、鼻咽頭の前後径が短い個体では、後鼻孔の幅が補償的に大きくなっていること、口蓋後部の幅もこれと関連している可能性が示唆された。

 

 

口演 O2−8  11月4日(金)14:24〜14:36

歯冠計測値及び局所的頭蓋形態からみた姥山貝塚B9号住居址出土人骨群の類似性

○佐宗亜衣子、諏訪元(東大・総合研究博物館)

Morphological similarities in the ‘family’ skeletons from the Ubayama shell mound B9 pit dwelling: an analysis based on dental and localized cranial measurements

SASO, A., SUWA, G.

 

 1926年に姥山貝塚のB9(接続溝1)号住居址から発見された人骨群(男性2、女性2、子供1)は、何らかの事情により竪穴の住人が同時期に全員死亡したと推測されている。縄文時代の家族構成論における重要な事例として、議論の要となってきた。しかし、この人骨群が‘一家’であるか否かという点に関する検討は、主に出土状況や共伴遺物等の考古学的事実に基づいており、形質人類学的側面からは十分に行なわれていない。そこで本研究では5個体の血縁性を探る試みとして、歯冠計測値によるQ-モード相関係数の分析を行なった。さらに3次元計測による微細な計測を行い、頭蓋の各部位ごとの数量化を試み、相貌の類似性について比較した。

 

 

口演 O2−9  11月4日(金)14:36〜14:48

歯冠サイズに基づく未成人骨の性判定:性差の集団間変異の検討と出土人骨への応用

岡崎健治(九州大学院・比較社会文化・基層構造)

Sex assessment of subadult skeletons based on teeth crown measurements: an examination on interpopulational variation of sexual differences and an application to excavated skeletons

OKAZAKI, K.

 

 未成人骨の性判定を行うため、弥生・中世・近現代人骨を対象に、骨格形態から性別が明確な成人骨の歯冠サイズに基づく判別関数を集団ごとに算出した。本性判定法が有効な地域・時代範囲を知るため、歯冠サイズの性差の集団間変異について検討した結果、近畿地方の近現代人の性差は比較集団の中でも最大であった。判別関数の的中率は、扱う歯種数に伴い70100%の範囲で増加した。性別の記録がある近現代未成人骨を用いてこれらの判別関数の有効性を検証した結果、概ね実用に耐えうる的中率が得られた(86.5% (n=37))。弥生未成人骨を性判定した結果、隈・西小田遺跡において性比が男性に大きく偏っていた可能性が示された。


口演 O2−10  11月4日(金)14:48〜15:00

上顎前歯部舌側面磨耗の追加例

竹中正巳(鹿児島女子短期大学)

An additional example of the lingual surface attrition of maxillary anterior teeth

TAKENAKA, M.

 

 南九州の古墳時代を特徴づける墓制の一つである地下式横穴墓からは、これまでに3例の上顎前歯部舌側磨耗の確認された人骨が出土している。今回、宮崎県えびの市島内地下式横穴墓群69号墓2号女性壮年人骨にこの特殊磨耗が新たに認められたので報告する。本例では上顎左右の犬歯間だけでなく、上顎左右の第1大臼歯の舌側面にも磨耗が存在する。磨耗痕の認められる歯の舌側面は大半の歯で象牙質が透けてみえる。本個体の咬合は鉗子状であり、この磨耗は上顎前歯の被蓋が深いために起こる咬耗とは異なる。今回の追加例が加わったことで、植物などを引きしごく行為が地下式横穴墓分布域で広く行われていた可能性がさらに高まったと考える。

 

 

口演 O2−11  11月4日(金)15:00〜15:12

弥生時代の復元武器による創傷の実験的研究

○大藪由美子(京都大・理・自然人類)、片山一道(京都大・理・自然人類)

An experimental study of wounds inflicted by replica weapons of the Yayoi period

OYABU, Y., KATAYAMA, K.

 

 弥生時代の古人骨資料に、利器によると思われる傷痕が見つかっている。この傷の原因武器として考えられるのは、石製や金属製などの刀剣類や鏃と推定できる。これらの武器は、素材や形態の種類が多く、実際に人骨の傷痕をみただけでは具体的に器種を判定するのは難しい。そこで、具体的な判定を容易にするため、各武器の傷痕モデルを作ることを目的とし、創傷作成実験を行っている。本研究では、弥生時代の打製石剣、磨製石剣、銅剣のレプリカを用いて、さらには鉄製武器の代用として現代の鉈を使用し、ニホンザルの骨格に切傷を作る実験を行った。この実験で作成した傷痕の形態を武器ごとに分析し、各武器による傷痕の形態を肉眼的、顕鏡的に比較検討する。

 

 

口演 O2−12  11月4日(金)15:12〜15:24

シリア・パルミラ地下墳墓の出土人骨について

○中橋孝博(九州大・比文)、吉村和久(九州大・理・化学)、岡崎健治(九州大・比文)、舟橋京子(九州大・比文)、古賀英也(九州大・医)

On the skeletal remains excavated from the underground tomb in Palmyra,Syria

NAKAHASHI, T., YOSHIMURA, K., OKAZAKI, K., FUNAHASHI, K., KOGA, H.

 

 シリア砂漠のオアシス都市・パルミラにおいて、1990年より奈良県シルクロード博記念財団、及び橿原考古学研究所による発掘調査が続けられている。第47回(1993)の本学会でも紹介したように、同地には紀元1〜3世紀頃の埋葬施設として地下墳墓、塔墓、神殿墓の3形式が存在するが、我々はこれまで3基の地下墳墓と1基の神殿墓の他、紀元前に遡る1基の石蓋木棺墓の発掘調査を実施し、各々から相当数の人骨資料を検出している。現在はさらにもう1基の地下墳墓(H号墓)の調査と修復作業を継続中であるが、今回、これまでに同遺跡から出土した人骨について得られた知見と今後の展望について報告したい。


口演 O2−13  11月4日(金)15:24〜15:36

フィジー・ボウレワ遺跡におけるラピタ人骨の発見

○石村智(京都大・理・自然人類)、パトリック・ナン(Dept. of Geography, University of the South Pacific)、ロゼリン・クマール(Dept. of Applied Science, University of the South Pacific)、セペチ・マタラランバ(Fiji Museum

New Discovery of Lapita Skeletons at Bourewa site, Fiji Islands

ISHIMURA, T., NUNN, P.D., KUMAR, R., MATARARABA, S.

 

 フィジー諸島共和国ビチレブ島のボウレワ遺跡における考古学調査(200567月)において、16体もの人骨が発掘された。本遺跡はラピタ人(南太平洋に最初に植民したグループ)の居住遺跡(貝塚遺跡)であり、周辺地域でも最古(およそ3200年前)の遺跡であることがわかっている。これまでラピタ人の人骨の出土例はきわめて少なく、その実体についてはほとんどわからなかった。今回の発見により、形質人類学的なラピタ人の理解がおおきく前進することはいうまでもなく、さらに彼らの埋葬方法についても多大な知見をえることができるだろう。

 

 

口演 O2−14  11月4日(金)15:36〜15:48

ベトナム北部新石器時代の幼児多葬−マンバックMan Bac遺跡の発掘調査−

○山形眞理子(早大・文・考古)、Nguyen Kim DungTrinh Hoang Hiep(ベトナム考古学院)、松村博文(札医大・医・解剖)、百々幸雄(東北大・医・人体構造)、篠田謙一(科博・人類)、澤田純明(聖マリ大・医・解剖)

Infant dominant cemetery at the Late Neolithic Man Bac site in Northern Vietnam

YAMAGATA, M., DUNG, N.K., Hiep, T.H., MATSUMURA, H., DODO, Y., SHINODA, K., SAWADA, J.

 

 マンバック遺跡はベトナム北部、ニンビン省の平野に屹立するカルストタワーの麓に位置する。紀元前2千年紀中頃の新石器時代末期に属する遺跡と考えられるが、同時期とされるベトナム北部紅河流域のフングエン文化は、初期金属器時代に位置づけられる。マンバックでは1999年、2001年、2005年に発掘調査が実施され、発掘総面積約103uの範囲から総計50基の墓葬が発見されている。2005年に検出された35基の墓葬のうち、被葬者が15歳以上に達したと確認されるのは12基しかない。副葬品の内容と多寡、土器の型式学的分析、動物骨や魚骨の分析など、考古学的に様々な面から当時の社会を考察することが可能な遺跡である。

 

 

口演 O2−15  11月4日(金)15:48〜16:00

ベトナム新石器時代末のMan Bac遺跡より出土した2タイプの人骨

○松村博文(札医大・医・解剖)、百々幸雄(東北大・医・人体構造)、Marc Oxenham(オーストラリア国立大・考古人類)、Kate Domett(ジェームスクック大・医・解剖)、Nguyen Lan Cuong, Nguyen Kim Thuy, Nguyen Kim Dung, Trinh Hoang Hiep(ベトナム考古学院)、篠田謙一(科博・人類)、山形眞理子(早大・文・考古)、澤田純明(聖マリ大・医・解剖)、瀧川渉(東北大・医・人体構造)

Two types of human remains excavated from Late Neolithic Man Bac site in Northern Vietnam

MATSUMURA, H., DODO, Y., OXENHAM, M., DOMETT, K., CUONG, N.L., THUY, N.K., DUNG, N.K., HIEP, T.H., SHINODA, K., YAMAGATA, M., SAWADA, J., TAKIGAWA, W.  

 

 ベトナム北部ニンビン省に位置する新石器時代末期のMan Bac遺跡の発掘調査を、日越豪の3国共同チームにより実施した。多数の人骨が密集した墓域となっており、35体の人骨の発見にいたった。幼児が多数を占めるが、成人骨も保存が良い。形態的には平坦な顔立ちから立体的なものまでかなり変異に富む集団である。ベトナムの新石器時代末は中国からの伝来による稲作開始期とも一致しており、中国南方からの移住集団の存在の可能性を検証するうえでまたとない資料である。人骨の形態分析による系譜関係をもとに、ベトナムにおいても日本と同様な人の「二重構造」が成り立つかどうかを考察する。


口演 O2−16  11月4日(金)16:00〜16:12

AMS14C年代測定を用いたフィリピン、ラロ貝塚群の編年

○三原正三(九大院・比文、学振)、小川英文(東京外大)、田中和彦(敬愛大)、中村俊夫(名古屋大・年代セ)、小池裕子(九大院・比文)

AMS 14C chronology for Lal-lo shell middens in Philippines

MIHARA, S., OGAWA, H., TANAKA, K., NAKAMURA, T., KOIKE, H.

 

 フィリピン、ルソン島のラロ貝塚群の編年に関しては、これまで人骨・動物骨・炭化物の14C年代測定から、無文黒色土器の文化期は1900 cal BP1000 cal BP、有文黒色土器群の文化期は2300~1500 cal BPと報告してきた。今回の発表はラロ貝塚群の編年全体をまとめるべく、黒色土器中の炭素を用いた年代を加え、さらに剥片石器群の文化期・有文赤色土器群の文化期・無文赤色土器群の文化期の年代値を明らかにした。また、メラネシアのラピタ文化との関連が指摘されている有文赤色土器を出土する代表的貝塚であるMagapit貝塚の存在に関して、その年代を中心に議論したい。

 

 

口演 O2−17  11月4日(金)16:12〜16:24

後期ジャワ原人の大後頭孔周辺の特徴に関する解釈

○馬場悠男(科博・人類)、F. アジズ(バンドン地質研究開発センター・地質博物館)

Considerations on the cause of peculiar morphological features seen around the foramen magnum of later

Javanese Homo erectus

BABA, H., AZIZ, F.

 

 後期ジャワ原人頭蓋には、大後頭孔周辺に奇妙な特徴が見られる。後頭顆がやや前方に位置し、その後方に隣接して小さな凹面がある。その後方すなわち大後頭孔外側に特有の結節(後頭顆後結節)が形成されるとともに、大後頭孔の辺縁部が肥厚している。さらに、大後頭孔後縁が後方に伸び出し(オピスティオン切痕)、大後頭孔が長楕円形あるいは長雨滴形である。これらに類似する形態特徴は、部分的には、ネアンデルタール人、巨人症の力士・出羽ケ嶽、そしてオランウータンなどにも見られるが、全体がセットとして出現することはない。これらの特徴は、環椎後頭関節の常習的な背屈と大後頭孔周辺への圧力によって形成された可能性が高いと考えられる。

 

 

口演 O2−18  11月4日(金)16:24〜16:36

ピテカントロプスII号頭骨(Sangiran 2)の出土層準とその意義

○松浦秀治、近藤恵(お茶の水女子大学)、竹下欣宏(栃木県立博物館)、熊井久雄(大阪市立大学)、兵頭政幸、上嶋優子、金枝敏克(神戸大学)、Fachroel AZIZ(インドネシア地質研究開発センター)

Probable source horizon of the Pithecanthropus II (Sangiran 2) calotte and its possible palaeoanthropological implications

MATSU'URA, S., KONDO, M., TAKESHITA, Y., KUMAI, H., HYODO, M., KAMISHIMA, Y., KANAEDA, T., AZIZ, F.

 

  ジャワ原人の第2号頭骨は1937年にジャワ島サンギラン地域のBapang村近くのCemoro川左岸から発見された。本頭蓋冠(Sangiran 2)は表面採集品であったが、カブー層下層部の砂岩層・礫岩層から洗い出されたものと考えられた(e.g. De Terra, 1943)。1970年代の日本−インドネシア合同調査では、フッ素含量の比較(Matsu'ura, 1982)からはカブー層基底部のGrenzbank層出土が示唆されたが、地質柱状図(Indonesia-Japan Res. Coop. Prog., 1979; Itihara et al., 1985)では同層中部凝灰岩直下に記され、矛盾が生じていた。今回、フッ素分析データの再評価と新規追加の柱状図に基づいて本化石がGrenzbank層に由来する公算の高いことを述べるとともに、その意義について言及する。


口演 O2−19  11月4日(金)16:36〜16:48

ボイセイ猿人の歯牙形態の時代的変遷について(予報)

○諏訪元(東大・総博)、河野礼子(科博・人類)、B. ASFAW (R.V.R.S.)

Time transgressive morphological changes in Australopithecus boisei—a preliminary report

SUWA, G., KONO, R. T., ASFAW, B.

 

 コンソ遺跡群では、190万から140万年前の間、特に乾燥草原適応と思われるウシ科などの種構成や頻度、形態的特殊化において顕著な変化が見出されている。これは170万年前ごろ、東アフリカにおこったとされている乾燥化と関連している可能性が高い。コンソ遺跡群のボイセイ猿人化石の年代は140万年前ごろであり、同種の最終期のものに相当し、しかも乾燥草原適応が顕著な動物相と共に出土している。本研究では、コンソ遺跡群のボイセイ猿人化石と他遺跡、他年代のものを比較し、環境変動ならびに動物相の変遷に伴ってボイセイ猿人においても形態的特殊化が進行したか検証する。今回の発表では歯牙形態に関して予備的な結果を報告する。

 

 

口演 O2−20  11月4日(金)16:48〜17:00

猿人の大臼歯エナメル質厚さについて

○河野礼子(科博・人類)、諏訪元(東大・総博)

Molar enamel thickness of A. africanus and A. robustus

KONO, R. T., SUWA, G.

 

 人類の初源期の様相が明らかになりつつある近年、大臼歯エナメル質厚さの重要性も一段と高まった感があるが、分析に標本の切断をともなう性質上、化石資料に関する従来の知見は限られたものであった。自然断面と一部標本の切断面の観察により、猿人、特に頑丈タイプのそれにおいて、エナメル質厚さの発達が著しいことが示唆されてはいるが、さらに種や歯種ごとの分布パターンの詳細を明らかにする必要がある。一方、筆者らは、エナメル質分布を非破壊的により詳細に調査するべく方法的な改良を試み、現生種に関する知見を蓄積してきた。このほど南アフリカ共和国産出の猿人化石資料のエナメル質分布を調査する機会を得たのでその結果を報告する。

 

 

口演 O2−21  11月4日(金)17:00〜17:12

ケニア、ナカリ地域における後期中新世の古人類学的調査

○中務真人(京大・院理・自然人類学)、國松豊(京大・霊長研)、辻川寛(京大・院理・自然人類学)、山本亜由美(京大・霊長研)、酒井哲弥(島根大・総合理工)、實吉玄貴(新潟大・自然科学)、沢田順弘(島根大・総合理工)

Paleoanthropological research in Nakali, central Kenya

NAKATSUKASA, M., KUNIMATSU, Y., TSUJIKAWA, H., YAMAMOTO, A., SAKAI, T., SANEYOSHI, M., SAWADA, Y.

 

 近年6Maを遡る初期人類が発見され、人類・チンパンジー分岐後の様相の解明が進むかと期待されるが、人類と現生アフリカ類人猿の最後の共通祖先を巡る手がかりは、サンブルピテクスの発見以来、事実上増えていない。演者らは2002年、ケニア、ナカリ地域において、古人類学調査を開始した。これまで500点を超える動物化石が収集され、その年代は10Maと決定された。この地域では、以前若干のコロブス類化石が報告されていたが、これをはるかに越えるコロブス類の化石が収集されるなど、霊長類化石にめざましい充実が見られた。低歯冠のウシ科動物やコロブス類の存在は、この地域が比較的樹木の茂った環境であったことを示唆する。


口演 O2−22  11月4日(金)17:12〜17:24

チンパンジーにおける舌骨の下降

○西村剛(京都大院・理・自然人類)、三上章允(京都大・霊長研)、鈴木樹理(京都大・霊長研)、加藤朗野(京都大・霊長研)、熊沢清則(京都大・霊長研)、前田典彦(京都大・霊長研)、田中正之(京都大・霊長研)、友永雅己(京都大・霊長研)、松沢哲郎(京都大・霊長研)

Descent of the hyoid in chimpanzees

NISHIMURA, T., MIKAMI, A., SUZUKI, J., KATO, A., KUMAZAWA, K., MAEDA, N., TANAKA, M., TOMONAGA, M., MATSUZAWA, T.

 

 ヒトの声道はほぼ同じ長さ口腔と咽頭腔からなる二共鳴管構造であり、この構造の進化により話しことばが進化した。ヒトでは、生後、喉頭が口蓋に対して急激に下降する喉頭下降によって、咽頭腔が口腔よりも速く伸張し、9歳頃にこの構造が完成する。我々は、2000年に生まれた3個体のチンパンジーの声道形状の成長変化を、磁気共鳴画像法を用いて調べてきた。すでに、乳児期に、ヒトと同様に喉頭が舌骨に対して下降することを示した。今回、幼児・コドモ期に、ヒトと同様の舌骨の口蓋に対する下降を確認した。これらの結果より、声道の二共鳴管構造は、喉頭下降の進化ではなく、ヒト系統での顔面の平坦化によって進化したことが示唆された。

 

 

口演 O2−23  11月4日(金)17:24〜17:36

手部筋骨格系の形態が精密把握機能に与える影響

○荻原直道、工内毅郎、中務真人(京都大・院理・自然人類)

Biomechanical evaluations of human-distinctive hand musculo-skeletal morphology on precision grip capabilities

OGIHARA, N., KUNAI, T., NAKATSUKASA, M.

 

 ヒトの優れた精密把握能力の形態的基盤を明らかにするために、ヒトとチンパンジーの手部筋骨格構造を解剖学的に忠実に模擬した数理モデルを構築し、ヒト手部筋骨格系の形態的特徴が精密把握機能に与える影響を生体力学的に分析した。筋骨格モデルは、CTにより取得した骨形態情報と、手部の屍体解剖データを元に構築した。本モデルを用いてヒトとチンパンジーの把握動作を仮想空間内で再現し、両者で比較した結果、母指が相対的に長い、長母指屈筋が存在する、第一背側骨間筋の付着位置が異なる、といったヒト手部形態に固有な特徴が、把握能力の向上に大きく寄与していることが示唆された。

 

 

口演 O2−24  11月4日(金)17:36〜17:48

小型霊長類の上腕骨遠位関節の形態比較:緻密骨と海綿骨の構造

○江木直子、中務真人、荻原直道(京都大・理・自然人類)

Comparisons of trabecular and cortical bone structures in distal humerus of small primates

EGI, N., NAKATSUKASA, M., OGIHARA, N.

 

 霊長類の関節形態は運動行動の違いを反映していると考えられているが、関節内部構造についての研究例は少ない。本研究では、原猿類と小型真猿類の上腕骨遠位関節部をpQCTで撮影し、緻密骨量や海綿骨骨梁の量と異方性を比較した。ロリス科では緻密骨が厚いのにたいし、キツネザル科やオナガザル科では海綿骨の割合が大きく、骨梁の占める密度が高いという違いが見られた。どの種でも、海綿骨骨梁は矢状面内に発達する傾向がある。運動行動の異なる種間では、関節部の緻密骨の量が変わる場合と海綿骨の量と構造が変わる場合があることが示唆され、関節内部での荷重環境への適応は、2つの異なる骨形成機構によって調整されうると考えられる。


口演 O2−25  11月4日(金)17:48〜18:00

円周歩行の運動解析II

○平崎鋭矢、熊倉博雄(大阪大・院・人間科学・生物人類)

Kinesiological analysis of circular walking. II

HIRASAKI, E., KUMAKURA, H.

 

 我々は直線歩行以外の歩行の代表例として円周歩行を取り上げ、運動学的解析を継続中である。今回は下肢関節の屈曲伸展運動について報告する。被験者(成人6名)は水平回転する円盤型トレッドミル(直径244 cm、回転速度40-90 deg/s)の円周部を、回転とは逆方向に歩き、その際の身体各部の動きを三次元位置計測装置(OPTOTRAK 3020)で計測した。下肢帯、大腿、下腿、および足部は装着したマーカーが形成する剛体として捉え、関節角度はそれらの剛体間の相対角度と定義した。その結果、内側の下肢においては直線歩行で一般的な「膝の二重作用」が見られない等、内外側下肢の動きの間に差異が見られた。


一般口演3 11月6日(日)09:30〜11:54 A会場

 

 

口演 O3−1  11月6日(日)09:30〜09:42

現代日本人における下顎隆起の出現状況について

○五十嵐由里子、大関紗織、中林隆、金澤英作(日本大・松戸歯・解剖)

The frequency of the mandibulari torus in present-day Japanese

IGARASHI, Y., OHZEKI, S., NAKABAYASHI, T., KANAZAWA, E.

 

 現代日本人歯列石膏模型253個体(男性137個体、年齢13歳から86歳、女性116個体、年齢15歳から86歳)において、下顎内面の肉眼観察と触診を行い、下顎隆起の有無、発達程度、位置を調べた。今回新たに設定した基準に従って判定を行った結果、下顎隆起の出現頻度は従来の研究よりも高い値となったが、位置に関しては従来の研究と同様の結果となった。本発表では、これらの結果を紹介するとともに、歯の咬耗(摩耗)の程度、歯の数、叢生の程度と下顎隆起の関連をみることによって、下顎隆起の成因について考察を行う。

 

 

口演 O3−2  11月6日(日)09:42〜09:54

縄文人と近代日本人における下顎隆起の出現状況について

○大関紗織(日本大・松戸歯・解剖)、五十嵐由里子(日本大・松戸歯・解剖)、金澤英作(日本大・松戸歯・解剖)

The Frequency of the Mandibular Torus in Jomon and Modern Japanese

OHZEKI, S., IGARASHI, Y., KANAZAWA, E.

 

 本研究では、縄文人骨と近代日本人骨における下顎隆起の出現状況を調査した。資料は東京大学総合研究博物館所蔵の、姥山貝塚、保美貝塚、寄倉岩陰遺跡出土の縄文人骨106個体と、20世紀初頭に死亡した日本人骨格標本105個体である。今回新たに下顎隆起の分類基準を設定し、保存状態が良好な下顎骨内面について、肉眼観察および触診を行った。その結果、近代日本人に比べ、縄文人において下顎隆起の出現頻度が高く、発達した下顎隆起の割合も高かった。また、縄文人と近代日本人では、下顎隆起の好発部位に差が見られた。さらに、下顎隆起の成因を探るため、歯の咬耗や磨耗、歯数、叢生の程度との関連について考察する。

 

 

口演 O3−3  11月6日(日)09:54〜10:06

現代日本人下顎骨正中部における骨分布の機能形態学的研究

深瀬均(東大・理・人類)

Functional Significance of Bone Distribution in the Human Mandibular Symphysis

FUKASE, H.

 

 下顎骨には咀嚼器官として日常的に様々な負荷がかることが知られている。本研究では現代日本人男性32個体分について高解像度μCT装置を用いて下顎骨正中部の断面画像から骨分布を調査した。そしてその骨分布と下顎骨正中部に生じると推定されている応力分布との間の機能的関連性の有無について考察した。結果として上側に対し下側に、唇側に比べ舌側に骨部が集中していることが明らかとなった。応力の重ね合わせから大きな引張応力が生じるとされている舌側下方において最も骨部が集中していることが判明し、これは機能適応的な解釈を支持する。


口演 O3−4  11月6日(日)10:06〜10:18

三次元形状データベースを用いた骨形態復元手法における復元精度の検証
○松川慎也(東大・理・人類)、持丸正明(産総研・デジタルヒューマン研究センター)、河内まき子(産総研・デジタルヒューマン研究センター)、諏訪元(東大・総合研究博物館)
Verification of reconstructing accuracy about reconstruction method of lost parts of bones based on the database of 3D bone morphology of modern Japanese
MATSUKAWA, S., MOCHIMARU, M., KOUCHI, M., SUWA, G.

 前回の発表では右手第三基節骨を対象とした完全骨の三次元データベースを用いて、骨の欠損部分を客観的に推定する復元方法を紹介し、その精度を調べ報告した。今回はジャックナイフ法を導入し、本手法の復元結果60体分から導出される線計測変数を用い、骨の残存程度の違い及び計測項目の違いによる復元精度の傾向を調べた。さらに、前回行なった平均形状スケーリングによる結果との比較だけでなく、線計測変数の重回帰による欠損値補完法とも比較し、また線計測項目による多次元空間でのD2距離を調べることで、伝統的な線計測法に基づく形態評価における本手法の有効性を考察した。

 

 

口演 O3−5  11月6日(日)10:18〜10:30

アジアの子どもの身長に対する四肢のアロメトリー成長

○熊倉千代子(大妻女子大・人間生活科研)、楠本彩乃(株/シンエイ)、金鋒、曹京龍(中国科学院・遺伝研)、徐飛(大連医科大・解剖)、芦澤玖美(大妻女子大・人間生活科研)

Allometry of growth among stature and limb lengths in Asian children

KUMAKURA, C., KUSUMOTO, A., JIN, F., CAO, J., XU, F., ASHIZAWA, K.

 

 アレンの規則が子どもの体形に適用されるか否かをみるために、大連、北京、マニラ(マカティーとケソンシティー)、東京の子どもの身長、上肢長、下肢長について比較した。身長は中国人がフィリピン人より高いが、四肢の身長比は前者が後者より小さかった。log上肢長/log身長、log下肢長/log身長、log上肢長/log下肢長について比較したところ、身長に対する上肢の伸び速度はケソンシティーの子どもが速く、東京が遅かった。身長に対する下肢の伸び速度はマカティーの子どもが最も速かった。結論として、同じモンゴロイドでも寒い地域では身長の割に四肢が短く、身長の伸びの割に四肢の伸び速度は遅いという結果が得られ、アレンの規則と一致しているように思われる。

 

 

口演 O3−6  11月6日(日)10:30〜10:42

膏肓穴深部硬結の組織形態から類推された肩関節の運動制限について

○竹内京子(防衛医大・解剖1)、片山証子(筑波大・スポ医)、岡田守彦(帝京平成大・ヒューマンケア)、三浦賢司(防衛医大・解剖1)、伊藤正孝(防衛医大・解剖1)、今城純子(防衛医大・解剖1

Relationship between the Koukou trigger point induration and limitation movement of shoulder joint

TAKEUCHI, K., KATAYAMA, S., OKADA, M., MIURA, K., ITO, M., IMAKI, J.

 

 平成17年度解剖学実習献体者遺体(♀93歳)において、東洋医学的に「病膏肓に入る」で知られる膏肓穴の深部に皮膚からも触診可能な硬結が認められた。解剖学的には肩甲骨内側縁、第四から第五胸椎棘突起の高さで大菱形筋下縁の停止部と前鋸筋停止部が撓みながら重なっていた間にあった。組織学的には、ガングリオン様を呈しており、非常に肥厚した膠源線維が主体の組織であった。前鋸筋と肋骨面との間にも膠原線維主体の肥厚した板状の構造物が見られたが、こちらは体表からの触診は不可能であった。これらの構造物は、大菱形筋や前鋸筋下部の動きに制限を加えることで、肩関節の運動制限にも大きく関係していることが示唆された。


口演 O3−7  11月6日(日)10:42〜10:54

アカゲザルの正中神経から筋皮神経への交通枝

岩本壮太郎(九保大・保健科学・作業療法)

Communicating branch from the median to the musculocutaneous nerve in rhesus monkey

IWAMOTO, S.

 

 マカクでは一般に正中神経から筋皮神経への交通枝、正中神経から尺骨神経への交通枝が常在する。タイワンザルにおいて前者はC7成分が正中神経を経由して筋皮神経の遠位枝とともに筋枝及び皮枝経として分布する。アカゲザルでも交通枝の根はC7成分であることに変わりはないが、タイワンザルでは筋皮神経への交通枝は上腕筋枝、皮枝の両者にほぼ均等に参加しているのに対して、アカゲザルでは後者への参加が主体で上腕筋枝を送るのは半分以下であった。活動様式がbrachiation中心と考えられるクモザルやテナガザルでは筋皮神経の各枝は分散して正中神経から分枝される例が少なくないことから、若干の生態の差異が考えられる。

 

 

口演 O3−8  11月6日(日)10:54〜11:06

コンゴ民主共和国ワンバ地区周辺の野生ピグミーチンパンジーの生息状況

○五百部裕(椙山女大・人間関係)、Mwanza NdundaCREFCongo

The actual situation of wild pygmy chimpanzees around Wamba, Democratic Republic of Congo

IHOBE, H., NDUNDA, M.

 

 コンゴ民主共和国において20048月に行った、野生ピグミーチンパンジー(Pan paniscus)の生息状況の把握を目的とした現地調査の結果を報告する。ピグミーチンパンジーの野外研究は1990年代半ばからの政情悪化にともない中断を余儀なくされた。この不安定な政治状況下でこの種の密猟は増加していると推測されており、個体数の減少が危惧されている。そこで今回の調査では、長期調査が行われてきたワンバを出発点として周辺の町や村をバイクで回り、ピグミーチンパンジーの生息状況や村人の森林利用についての聞き込みやアンケートを行った。この結果について報告する。

 

 

口演 O3−9  11月6日(日)11:06〜11:18

ニホンザルにおける毛づくろい相手の行動がつまみ上げ行動の発達に及ぼす効果

田中伊知郎(四日市大・環境情報)

Effects of groomee behavior on development of picking behavior during grooming in free-ranging Japanese macaques

TANAKA, I.

 

 ニホンザルは、毛づくろい中に毛からシラミ卵をつまみ上げ食べる。この行動の形成過程を調べるために、長野県志賀高原地獄谷野猿公苑に餌付けされている志賀A−1群で横断的調査を行った。つまみ上げた後、つまみ上げたものを食べる割合は、年齢が上昇するにつれて食べる割合が上昇した。この食べる割合は、つまみ上げたときに相手の行動に変化が生じる(毛づくろい部位の体を動かす・呼吸のリズムが乱れるなど)かの割合に年齢以上に強く相関した。以上から、相手から反応を受けることで、相手に不快なつまみ方が排除されて、その結果、つまみ上げ行動が絞り込まれ、食べることまで完了できるようになると考えられる。


口演 O3−10  11月6日(日)11:18〜11:30

メスのワオキツネザルにおける群内・群間競争

○高畑由起夫(関学大・総合政策)、小山直樹(京大)、市野進一郎、宮本直美(京大・アジアアフリカ地域研究科)、中道正之(阪大・人間科学)

Inter- and within-group competition of female ring-tailed lemurs

TAKAHATA, Y., KOYAMA, N., ICHINO, S., MIYAMOTO, N., NAKAMICHI, M.

 

 マダガスカル・ベレンティ保護区での11年間の調査にもとづき、ワオキツネザルのメスにおける群内競争と群間競争のバランスシートを調べた。群内では、メスは互いに激しい攻撃行動(targeting behavior)を示し、群れから“追放”されることも稀ではない等、順位はかなり変動する。一方、群れサイズとメスの繁殖成功にはある程度の相関が認められた。とくに幼児死亡率は群れサイズに対してU字型のカーブを、生後1年まで生き残った幼児数は逆U字型のカーブを示した。この結果は、Wrangham1980)によって提唱されたIGFC仮説に近い。

 

 

口演 O3−11  11月6日(日)11:30〜11:42

定住した狩猟採集民、マレーシア半島部先住民Batekの時間利用

須田一弘(北海学園大・人文)

Time allocation among the Batek, settled hunter-gatherers of Malay peninsular

SUDA, K.

 

 マレーシア半島部の先住民、いわゆるオランアスリの1グループであるBatekは、かつては熱帯雨林で少数のグループによる遊動的な生活を送っていた。生計維持活動の中心は狩猟、採集、漁撈による野生動植物の利用であり、さらに、籐や香木を採集し米やタバコ、衣類等と交換していた。ところが、1970年代後半から、マレーシア政府による定住化政策が進み、ほとんどのオランアスリは政府によって作られた居住地に定住することを余儀なくされ、その生計維持活動も大きく変化した。本発表では、アブラヤシ農園に囲まれたトレンガヌ州の居留地に暮らすBatekの時間利用のデータをもとに、彼らの現在の生計維持活動について報告する。

 

 

口演 O3−12  11月6日(日)11:42〜11:54

明治前アイヌ人口はもう少し多かった

葭田光三(日本大学文理学部総合文化研究室)

Population of the Ainu before Meiji Restoration was more estimated than that documented

YOSHIDA, K.  

 

 明治前のアイヌ人口はさまざまな旧記類に記録されている。これらの旧記類とその記録については前2回の大会で報告した。これらの記録と明治以後の記録とを場所(相当する地域)別に検討した結果、明治前の記録では記載されていない人口が相当数ある可能性がある場所が複数認められた(東蝦夷地に限られる)。これらの場所では明治前(安政期)と明治以後の人口で自然増加では理解できない増加が見られている。また、場所間の移動はほとんどなく、当該場所での人口増加は、明治前の調査では記録されない人口が加算された結果である可能性が高い。演者は、明治前アイヌ人口は、従来の記録よりは10%前後(またはそれ以上)多かったと推定する。



聖マリアンナ医科大学 解剖学教室 216-8511 川崎市宮前区菅生2-16-1 Tel 044-977-8111 ext. 3517 Fax 044-976-3740 jinrui59@marianna-u.ac.jp


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