一般口演アブストラクト

●11月4日(土)9:00〜11:00 B会場(C101)
T01
沖縄の更新世人骨の年代に関する追加資料
○近藤 恵、松浦秀治(お茶の水女子大学・生活科学部・自然人類学研究室)
Additional data on the chronology of Pleistocene hominid remains from Okinawa Island.
KONDO, M., MATSU'URA, S.
 琉球諸島では、港川裂罅、山下町第一洞穴、下地原洞穴、ピンザアブなどから更新世に遡ると考えられる人骨が出土している。これらの人骨(山下町第一洞穴人を除く)の年代については、演者らによって、各遺跡のシカ化石等との相対編年がフッ素法等を用いて検討されてきた。一方、数値年代は骨化石包含層中の木炭やカニ化石等の放射性炭素年代から推定されているが、測定対象と人骨との同時性は保証されていない。今後は人骨と同時期の動物骨の放射性炭素年代を得ることが望ましいが、それには各人骨と個々の動物骨との年代関係を予め明らかにする必要がある。本発表では上部港川人の多元素分析による層位判定と山下町第一洞穴人に関するフッ素分析結果を述べる。
T02
幼年期の下顎骨における縄文人と現代日本人の形態差について
○深瀬 均(東大・理・人類)
Morphological differences between Jomon and modern Japanese mandibles in the infant-juvenile period.
Fukase, H.
 下顎骨の形態は力学的ストレスへの可塑性が比較的高いことが知られる。そのため成人標本を用いた先行研究から、縄文人に対する現代日本人の下顎骨の特徴には咀嚼力の低下等の環境要因が関わると考えられてきた。本研究では、歯牙形成段階より1歳から8歳までと推定される下顎骨を用いて集団間の形態比較を行い、またその結果と成人における形態差とを比較した。結果として、縄文人に比べ現代日本人の下顎骨は成長の初期から既に各サイズ項目が有意に小さく、下顎角が大きく、また正中断面内の緻密質が薄いことが示された。このことから下顎骨における両集団間の形態差には遺伝的背景を持った生得的な要因が含まれることが示唆される。
T03
縄文人の地理的多様性とは何だろうか−頭蓋と四肢骨の計測的特徴に基づく比較−
瀧川 渉(東北大院・医・人体構造学)
Geographic diversity of osteological features in the Jomon people: A comparative study between cranial and limb bone metric traits.
TAKIGAWA, W. (Dep. Anat. & Anthropol., Tohoku Univ. Sch. Med.)
 昨年の四肢骨の計測的特徴に続き、今回は頭蓋12計測項目を基に、日本列島の6地域について縄文人と現代日本人の地域間変異を検討した。単変量解析では、有意な地域差が認められた計測項目は縄文人男性では極めて少なかったのに対し、女性では多くの項目に地域差が見られた。また、マハラノビスの距離分析の結果、縄文人と現代日本人の平均距離は男性では同程度であったが、女性では縄文人の方が大きい傾向にあることが判明した。さらに縄文人に関しては、九州と各地域の間の鉄道距離とマハラノビスの距離との間に男女とも有意な正の相関が確認された。縄文人頭蓋の計測的特徴には、九州から北海道にかけて何らかの地理的勾配が存在する可能性がある。
T04
成長期における縄文時代人大腿骨の形態学的研究−骨幹部の栄養孔位に着目して−
○水嶋崇一郎(東大・理・人類)
Cross-sectional morphology of the Jomon femoral diaphysis at the nutrient foramen level: growth patterns from the late fetal to adolescent periods.
MIZUSHIMA, S.
 昨年度の発表では、成長期の縄文時代人と現代日本人の大腿骨を比較し、中央径と骨幹長における成長様式を提示した。結果として縄文時代人の中央径はすでに胎児後期から成長段階を通じて現代日本人より大きく、頑丈性の特徴のうち少なくとも骨幹中央部の太さについては、従来の機能適応的な解釈に加えて遺伝要因の影響も考慮する必要があると考えられた。本研究では同一標本群を対象に、特に骨幹部の栄養孔位に着目して外径や頑丈示数、骨幹長における成長様式を調査した。両未成人集団の断面形状の相違を明らかにし、中央径で得られた縄文時代人の頑丈性の傾向が当該部位においても見られるかを検討した。
T05
種子島広田遺跡出土人骨
○竹中正巳(鹿児島女子短期大学)、石堂和博、徳田有希乃(鹿児島県南種子町教育委員会)
Human skeletal remains from Hirota, Tanegashima.
TAKENAKA, M., ISHIDO, K., TOKUDA, Y.
 広田遺跡は鹿児島県種子島に所在する弥生時代後期から古墳時代相当期の砂丘埋葬遺跡である。約50年前の3次に渡る発掘調査により、157体の人骨と44000個に及ぶ貝製品が出土した。広田人の形質は同時期に南西諸島に居住した人々と同様の特徴を多く持つ。広田の人々は南西諸島の文化を取り入れつつ、貝文化など豊かなの独自の文化を形成していたと考えられている。2005年に砂丘崩壊により、新たに人骨が露出し、緊急発掘が行われた。発掘調査は2006年まで続いた。2年間の発掘調査により、遺跡の範囲が広がり、合計12体の人骨が検出された。今回の発表では、新しく出土した12体の人骨について報告する。
T06
北部九州・山口弥生人に見られる高顔傾向と鼻根部平坦性の成長変化
○岡崎健治(九州大学・比較社会文化)
The growth patterns on the high face and the flat nasal root of the Yayoi people in the northern Kyushu-Yamaguchi region.
OKAZAKI K.
 成人骨では、縄文人は低広顔傾向が強く、鼻根部が立体的であるのに対し、北部九州・山口弥生人は高顔傾向が強く、鼻根部が平坦である。後者の特徴は、比較的同時代の大陸に居住していた人々と類似するため、弥生時代に大陸から人々が渡来してきた証拠の一つとされてきた。
 未成人骨を対象とした本発表から、北部九州・山口弥生人の高顔傾向は、10−12歳以降の顔高の成長に因るところが大きいことが示された。一方、顔面の立体性では、5−7歳、おそらくはより幼い時期から集団差が発現する可能性が見られた。これらの特徴の発現パターンについて、顔面部を大きく占め、顔面形態に影響を与えていると思われる上気道の機能的観点から考察を行った。
T07
大浦山洞穴出土の弥生時代人骨
○佐宗亜衣子(東大・総合研究博物館)、諏訪 元(東大・総合研究博物館)
Yayoi skeletal remains from the Ourayama sea cave, Yokosuka, Japan.
SASO, A., SUWA, G.
 1962―3年に行われた赤星直忠や鈴木尚らによる調査で、神奈川県横須賀市三浦半島の突端に位置する大浦山海食洞穴から特殊な埋葬状態の弥生時代人骨群が発掘された。鈴木尚はこの人骨群について、一個体に属する骨片が洞窟内に分散し、大多数の骨が大小の破片となっており、刃物による損傷が観察されることなどを報告し、儀礼的な食人が行なわれた可能性に言及している。今回、我々は標本の再整理を通じてデータベース化に着手すると共に、赤星直忠博士文化財資料館に保管されている発掘当時の記録についての調査を行い、標本の最小個体数、部位構成、出土分布状況や接合状況などについてより詳細かつ、より定量的な評価を試みた。
T08
古人口学的研究:一橋高校遺跡出土の江戸時代人骨の分析
○長岡朋人・平田和明(聖マリアンナ医大・解剖)
Paleodemography of the early modern population in Japan: Analysis of the skeletal remains from the Hitotsubashi site
NAGAOKA, T., HIRATA, K.
 The purposes of this study are to obtain demographic data regarding the early modern skeletal population buried at the Hitotsubashi site in Tokyo, Japan, and to attempt to reconstruct the mortality profile of the early modern Japanese. The Hitotsubashi skeletal samples consist of 207 individuals, including 108 subadults (under 15 years old) and 99 adults. Hitotsubashi abridged life table analysis yielded an e0 of 20.6 years for both sexes and an e15 of 23.1 years. To evaluate the likelihood of the estimated data, a comparison of our results with the different population demographic models (Weiss, 1973: American Antiquity, 38) was carried out. We infer that the systematic underestimation of age in adults is an unavoidable problem in the Hitotsubashi series. This study will help refine our understanding of the life history patterns of the early modern inhabitants of Japan.
T09
茨城県東海村村松白根遺跡から出土した中世人骨のミトコンドリアDNA解析
○坂平文博(名大・院情報)、西本豊弘(国立歴史民俗博物館)
Mitochondrial DNA analysis of the medieval human skeletal remains excavated from Muramatsushirane site
Sakahira F and Nishimoto T 
 中世村落部の遺伝的構成を調べるため、茨城県東海村村松白根遺跡出土の中世人骨のミトコンドリアDNA解析を行った。ミトコンドリアDNAのコントロール領域の塩基配列の解読とハプログループの決定に関わるコード領域の変異の検出を試みた。その結果、当遺跡出土人骨のハプロタイプ多様度は、縄文時代後期の中妻貝塚の比べて高い値を示した。これは、当遺跡における塩の生産と交易による人の流入の影響である可能性がある。またハプログループ頻度分布では、現代日本人のハプログループの頻度分布に近い値を示し、既に中世村落部においても現代日本人に通じる遺伝的構成が確立されていたと考えられる。
T10
オホーツク文化人の古代DNA分析
○佐藤丈寛(北大・院理・生物)、小野裕子(北大・総合博)、天野哲也(北大・総合博)、石田 肇(琉球大・医)、小寺春人(鶴見大・歯)、松村博文(札幌医大)、米田 穣(東大・院新領域)、増田隆一(北大・創成研)
Ancient DNA analysis of the people in the Okhotsk culture.
SATO, T., ONO, H., AMANO, T., ISHIDA, H., KODERA, H., MATSUMURA, H., YONEDA, M., MASUDA, R.
 オホーツク文化は5〜12世紀にオホーツク海南岸一帯に栄えた海洋民の文化である。この文化は北海道で成立した縄文系の文化とは明らかに異質であり、その起源を解明することは北海道における文化の変遷を考える上で重要な課題である。本研究では、オホーツク文化の遺跡から出土した人骨について古代DNA分析を行い、オホーツク文化人の起源を明らかにすることを目的とした。ミトコンドリアDNA(mtDNA)コントロール領域を分析し、その塩基配列を東アジア諸集団のものと比較した結果、オホーツク文化人は北東シベリア、特にアムール河下流域の集団に最も近縁であった。さらに、アイヌ集団への遺伝子流動があったことが示唆された。
●11月4日(土)14:00〜17:00 B会場(C101)
T11
再び眼窩上孔と舌下神経管二分について−現生人類における出現頻度の比較
○百々幸雄(東北大・医・人体構造)、石田 肇(琉球大・医・解剖)、埴原恒彦(佐賀大・医・解剖人類)
Supraorbital foramen and hypoglossal canal bridging revisited: worldwide frequency distribution.
DODO, Y., ISHIDA, H, HANIHARA, T.
 百々は1987年に Supraorbital foramen and hypoglossal canal bridging という論文を発表し、眼窩上孔と舌下神経管二分の出現頻度の組み合わせが、現生人類の地域集団を区分するのにきわめて有効であることを示した。この時点では、日本列島以外の集団についての出現頻度は文献によるところが多かったが、埴原と石田が2001年にほぼ世界中の地域集団を網羅する形態小変異の出現頻度を公表した。今回はこのデータに基づいて再び現生人類における眼窩上孔と舌下神経管二分の出現頻度を、とくに縄文人とアイヌに焦点を合わせて比較してみた。
T12
現代日本人女性の骨盤上の痕跡と妊娠・出産経験の関係
○五十嵐由里子(日本大・松戸歯・解剖人類形態)、上江州香實(日本大・松戸歯・数学)、金澤英作(日本大・松戸歯・解剖人類形態)
Bony Imprints in the Preauricular Area of the Ilium and Its Relation to Pregnancy and/or parturition Experience
IGARASHI, Y., UESU, K., KANAZAWA E.
 現代日本人女性において、腸骨耳状面前下部の骨表面にみられる窪みまたは溝状の痕跡について、その有無や発達程度と、出産や妊娠の経験の関連を調べた。資料は、1998年から2006年の間に医学部、歯学部の解剖実習で解剖されたご遺体104体である。腸骨耳状面前下部にみられる痕跡を、新たに設定した基準によって分類した。またご遺族へのアンケートによって、各人の出産・流産・早産の回数と年齢、出産方法、職業、病気や怪我の経験、身長、体重などの情報を得た。その結果、痕跡の有無と発達程度は、出産回数と相関することがわかった。発表では、これらの痕跡から出産や妊娠の回数を推定する方法について、詳しく考察を行う。
T13
ヒト歯冠計測値から見た琉球列島集団の多様性と他のアジア集団との比較検討
○当真 隆(琉球大・医・解剖)、埴原恒彦(佐賀大・医・解剖人類)、砂川元(琉球大・医・歯口外)、羽地都映(琉球大・医・解剖)、石田肇(琉球大・医・解剖)
Metric dental diversity of Ryukyu Islanders: a comparative study among Ryukyu and other Asian populations
TOMA, T., HANIHARA, T., SUNAKAWA, H., HANEJI, K., ISHIDA, H.
 琉球列島に現存するヒト集団より歯の石膏模型を採取し、歯冠近遠心・頬舌径の計測値を調べ、その地域内・地域間の多様性および他のアジア集団との比較検討を行った。琉球列島からは、沖縄本島より北に位置する徳之島、南西に位置する宮古島と石垣島、そして沖縄本島中北部に位置する嘉手納と今帰仁をサンプル集団とした。歯冠サイズで琉球列島集団はアジアの中で中間値を示すとともに、歯冠形態では相対的に近遠心径が頬舌径より大きく、他の集団とは独立したまとまりを作っていた。R-matrix法およびFstにより検討した結果、琉球列島の集団間多様性は低く、集団内多様性は特に離島集団において比較的高い値であった。
T14
台湾原住民のmtDNA多様性
陳錫秉(慈濟大學醫事技術學系)、○太田博樹(東京大、新領域、先端生命)、蕭育民(慈濟大學醫事技術學系)、マーク・ストーンキング(マックス・プランク進化人類学研究所、進化遺伝)、呉紹基(慈濟大學醫事技術學系).
MtDNA diversity in Taiwan aboriginal groups.
CHEN, S-P. (Dept. Medical Technology, Tzu Chi Univ.), OOTA, H. (Dept. Integrated Biosciences, Tokyo Univ.), SHIAO, Y-M. (Dept. Medical Technology, Tzu Chi Univ.), STONEKING, M. (Dept. Evolutionary Genetics, Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology), WU, S. (Dept. Medical Technology, Tzu Chi Univ.).
 台湾原住民の遺伝的多様性は、これまで主にオセアニアへの移住の観点から議論されてきた。しかし、彼らの人口動態や日本列島を含む他の東アジア人類集団との系統関係については未だ不明な点が多い。私達は、8つの台湾原住民(阿美、泰雅, 布農, 排湾, 卑南, 魯凱, 賽夏, 雛, 雅美)と平地人(漢民族)各40検体のミトコンドリアHVI領域配列決定をおこなった。その結果、Tajima’D 検定は全8グループの「人口一定性」を共通に示したが、集団内多様度は各グループで大きく異なった。さらに今回の発表では、解析手法の検討としてハプロタイプ・グループ系統分析と距離行列からの系統樹を比較する。
T15
女性の静止立位における良い姿勢の検討−太極拳実施者と運動非実施者のアライメント及び重心位置−
○綿谷昌明(九州保健福祉大QOL研究機構、九州大・大学院芸術工学府・芸術工学、宇部第一病院・リハ科)、岩本壮太郎(九州保健福祉大・保健科学部・作業療法学)
Good posture of the women's static standing position−Comparison of the alignment and position of the center of gravity between the women who do the Tai chi chuan and who do not.
MASAAKI,W.,SOUTAROU,I.
 There are many researches which related to the posture. But we still have no definition of a good posture in any academic researches.We surveyed the alignments and the displacements of the center of gravity about 25 general women and 25 women who learn Tai chi chuan, which needs a proper posture.We found that the aligments of women who learn Tai chi chuan are good in the issue of a proper posture.And we also found the displacements of the center of gravity of women who learn Tai chi chuan are small and stable.
T16
地域在住健康な高齢者の歩行特徴にみられる経時変化
◯木村 賛(石川県立看護大)、小林宏光(石川県立看護大)、中山栄純(北里大、看護)
Chronological change in walking patterns of healthy elderly lived in the community.
KIMURA, T., KOBAYASHI, H., NAKAYAMA, E.
 近年の急速な高齢化にともない、高齢における生活の質(QOL)をいかに保つかが問題となる。歩行能力は自立した個体のQOLを維持する重要な要因である。この問題に関して、現在石川県の地域に住んで生活している65歳以上の健康な高齢者の歩行の特徴と、その経時変化とを調べてきている。これまで29名に対して2年間にわたって、半年ごとのくりかえし調査を実施してきた。同一個人において季節によるちがいをみると、冬季は夏季より一日活動量の少ないことがみられる。これと関連するとみられる身体および歩行特徴の変動もみとめられた。
T17
日本人肩甲骨内側縁における大菱形筋の停止様式について
○竹内京子(防衛医大・再生発生)、高橋 裕(防衛医大・生物)、松村秋芳(防衛医大・生物)、岡田守彦(帝京平成大・ヒューマンケア)、今城純子(防衛医大・再生発生)、小林 靖(防衛医大・解剖学)
The attachment of the rhomboideus major muscle along the medial border of the scapula in Japanese cadavers
Takeuchi, K., Takahashi, Y., Matsumura, A., Okada, M., Imaki, J., Kobayashi, Y.
 大菱形筋の肩甲骨内側縁への停止様式を日本人解剖実習献体者遺体において再検討した。大菱形筋は体表から見ると菱形であるが、水平断では胸椎側(起始)を頂点とし肩甲骨側を底辺(最大2cm)とする3角形を呈する。底辺の一端は肩甲骨内側縁に停止し、他方(肋骨面側)は自由縁である。底辺部は、肩甲骨と肋骨との間の狭い領域にあり、肋骨面側に折りたたまれるように前鋸筋筋膜に接着している。浅層の線維は起始した後単純に外下方の肩甲骨内側縁に停止するが、肋骨面側(深層)線維は、一旦肩甲骨内側縁を素通りし、前鋸筋前面を最大2cmほど覆った後、方向を下内方に転じ肩甲骨内側縁に停止する。位置は浅層線維停止部の下方である。
T18
CT画像に基づいた頭蓋腔容積の計測に関する誤差の検討
○久保大輔(東京大・理・人類)、河野礼子(科博・人類)、諏訪 元(東京大・総合研究博物館)
The analysis of errors in measurements of endocranial volume from CT images.
KUBO, D., KONO, R. T., SUWA, G.
 近年CT撮影装置の性能向上と普及に伴い、CT画像から頭蓋腔容積を計量する事例が増えてきている。しかし誤差に関する検討がほとんど行なわれていないために精度の裏づけは乏しいのが現状である。そこで本発表ではまず、計測者内および計測者間誤差に関して、従来より主流であった種を用いた容積計測法との比較結果を示し、CT計測の繰り返し精度の高さに触れる。次に現代人頭骨1標本を対象に、CT画像計測に伴う誤差要因の影響を多面的に検討し、考えられうる誤差の程度を提示すると同時に、頭蓋腔容積の真値を高い精度で推定するにあたって押さえておくべき注意点を提示する。最後に頭骨化石への応用の一例として港川1号頭骨の頭蓋腔容積計測を取り上げる。
T19
個人内形状変化パターンの分析
○河内まき子・持丸正明(産総研・デジタルヒューマン)
An analysis of intra-individual shape change patterns
Makiko Kouchi and Masaaki Mochimaru
 2ヶ月間の体重減少プログラムに参加した成人女性20名の体幹部形状を例に、個人内形状変化パターンの個人差を分析した。プログラム開始前、1ヶ月後、2ヶ月後の3回、同じ計測者が形状と寸法39項目を計測した。形状から同数、同位相のデータ点から成るモデルを作成し、開始前のモデルを初期値、2ヶ月後のモデルを目標値としてFree Form Deformationの変形格子を計算し、個人内形状変化を定量化した。20名の変形格子のサイズを正規化し、主成分分析法と多次元尺度法(MDS;正規化変形格子間の距離行列を分析)で分析した。体形変化は「やせ」よりも「姿勢」の効果の方が大きく、MDSの得点の方が寸法の変化と系統的な関係をもっていた。
T20
有限要素尺度法による現代日本人手背部皮膚形状変形の解析
○松川慎也(東大・理・人類)、持丸正明(産総研・デジタルヒューマン研究センター)、河内まき子(産総研・デジタルヒューマン研究センター)
Three Dimensional Morphological Analysis of Skin Shape Changes of Hand Dorsum in Modern Japanese by Finite Element Scaling Method.
Shinya MATSUKAWA, Masaaki MOCHIMARU, Makiko KOUCHI
 運動時の皮膚表面の変形のうち、手背部の皮膚形状変形は変形量が大きく、かつ解析結果の関連製品への応用が期待される。我々は従来個体間ないし群間比較に用いられていた三次元形状比較手法である有限要素尺度法(FES)を用いて、個体内で手の姿勢を変化させた時の手背部の皮膚の形状変形解析を行なった。手背部に特徴点を11個定義し、マークをつけて4姿勢で主背部の形状を計測した。要素分割のために4個の仮想点を算出し、15点から四面体要素計17個を作成して手背部の形状を近似した。各姿勢間の比較を行ない、最も伸張の大きい方向を示す第一主方向および主ひずみを求めた。この方向は手に装着する製品の設計に重要と思われる。
T21
北海道厚岸町厚岸湖沿岸の貝塚遺跡と出土人骨について(予報)
○高山 博(慶大・文・人類学)、西 幸隆、加藤春雄(釧路市立博物館)、桜井準也、安藤広道(慶大・文)、古田 幹(慶應高校)、熊崎農夫博(厚岸町教委)
Preliminary report of Epi-Jomon shell midden sites along the Lake Akkeshi, Akkeshi cho, Kushiro prefecture, Hokkaido.
TAKATAMA Hiroshi, NISHI Y., KATO H., SAKURAI J.,ANDO H. & KUMASAKI N.
 北海道厚岸町の厚岸湖沿岸およびその周辺では、貝塚遺跡が多数報告されてきたが、その多くがすでに消滅あるいは大規模破壊を受けたとされ、以後80年間詳細な調査は行われてこなかった。02年夏から、慶大人類学研究室と釧路市立博物館・同埋文センターは、厚岸町教委の協力を得て、別寒辺牛川沿岸の貝塚遺跡(二股、大別、尾幌、オカレンボウシ)について、現状確認調査を行い、同時に京都大学総合博物館に所蔵されている釧路・厚岸出土人骨(清野コレクション)の整理・確認調査を遂行してきた。今回は、尾幌貝塚、オカレンボウシ貝塚での調査概要(遺構・遺物)とこれまでに発掘・再確認されている人骨の概要について報告する。
T22
狩猟採集民のいた島、沖縄
高宮広土(札幌大学・文化学部)
The islands of Okinawa, where hunter-gatherers once throve.
HIROTO TAKAMIYA
 島は、ヒト(Homo sapiens)が最後に克服した環境の一つである。ヒトの集団は、約一万年前までに、アフリカから南米の最南端まで、多様な環境へと拡散・適応していった。しかし、その頃までに植民された島はほんの一握りである。多くの島は、完新世になって初めてヒトの集団によって植民された。なぜ、彼らはごく最近まで島の環境に適応する事ができなかったのであろうか。その主因の一つは、島のキャリーイング・キャパシティーが低いことにある。それゆえ、世界の多くの島は、農耕民によって初めて植民された。しかしながら近年の沖縄諸島からのデータは、この地域の先史時代には、狩猟採集民が繁栄していた事を示しつつある。
T23
骨の傷跡から利器を推定する
○松井 章(奈良文化財研究所/京都大学大学院人間・環境学研究科併任)
New approach for the identification of injuring marks on bones
MATSUI, A.
 松井は高知居徳遺跡(縄文晩)、奈良坪井・大福遺跡(弥生中・後)、同、鴨都波遺跡(弥生中・後)、神戸市新保遺跡(弥生前)、松山宮前川遺跡群(弥生末)出土の動物骨および人骨の傷跡を観察してきた結果、それを残した利器を推定することが可能になったので報告する。傷跡は、1)カットマーク、2)チョップマーク、3)刺突痕、4)切創痕、5)貫通痕、5)槍鉋痕、6)鋸痕に分類でき、1,2は石器と金属器、3は石器と骨角器の区別が可能である。金属器は原料の入手の困難さから再利用されることが多く、遺跡には残りにくい。骨の傷跡から、金属器の初現は、現在考えられている年代よりも大きく遡る可能性が高いという結論に達した。
T24
愛媛県上黒岩洞窟の動物利用
○姉崎智子(群馬自然史博)、佐藤孝雄(慶大・文)、西本豊弘(国立歴民博)
Preliminary report on the faunal remains from Kamikuroiwa Cave, Ehime Prefecture, Japan
ANEZAKI, T., SATO, T., NISHIMOTO, T.
 Preliminary results of the analysis of faunal remains from Kamikuroiwa Cave (Incipient Jomon to Early Jomon), Ehime Prefecture, Japan are presented in this paper. The materials from five excavation seasons (1961 to 1970) were analyzed in detail in order to investigate the relatively frequency of different animal taxa, kill-off patterns, and size variations of the animals exploited at the cave. Cut marks and butchering techniques are also observed for medium size terrestrial mammals, such as Japanese serow (Capricornis crispus), Japanese deer (Cervus nippon), and Japanese wild pigs (Sus scrofa).
T25
馬場小室山遺蹟における縄紋式晩期ムロ(室)施設
鈴木正博(早大・先史考古学研究所)
Final Jomon chamber from Banba-omuroyama earthen mounds.
SUZUKI,M.
 さいたま市馬場小室山遺蹟の縄紋式後晩期「環堤土塚」は、武笠家が屋敷林として14代にわたり管理してきた歴史を有し、しかも弥生式以降における土地改変が殆ど認められずに今日まで保護されてきた、中央凹地を有する直径100m超の集落址である。5基の土塚が環状に巡る「環堤土塚」の晩期施設としては、「第51号土壙」として報告された直径3.5m深さ3.5mの「多世代土器群多埋設深掘大土壙」が重要である。そこでは「安行3a式」から「安行3d式」に至る38個体の完形(含人面文)土器等が一括検出され、演者はこの施設を「晩期安行式ムロ」と命名の上、特定住民の多世代に継承された集落運営制度と考察し、弥生式「再葬墓址」への移行に新たなる課題を見出している。

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