7月14日(土)午前
シンポジウム5 A会場
食物は競合するものか,共有するものか
(日本人類学会・日本民族学会合同シンポジウム)
オーガナイザー:山極寿一(京都大・理)
ダーウィン以来,食物はその量,質,分布の形を時と場所によって変えることで,生物の進化を左右する自然選択の主たる要因と考えられてきた.それは,生物が有限の食物をめぐって競合関係にあるとみなすからである.霊長類社会生態学は,この競合が霊長類の種間,種内にさまざまな社会関係をつくり出し,それぞれの環境や分類群に独特な行動様式や社会形態を進化させたことを論じてきた.一方,文化を発達させた人類は環境との直接的な関係を脱したとするのが文化人類学の立場であろう.人類は道具を用いて食物を採集,加工し,さらに分配や交換を通じて食物を社会的な場で共有しようとしてきた.ホモ・エレクトスの時代にこうした食物の蓄積や分配の跡が見られるとするホーム・ベース仮説は,人類が食物を仲間と共有することによって高度な社会性を発達させる基礎を築いたことを示唆している.しかし,はたして人類は食物を共有することに成功しているのだろうか.ターンブルは飢餓の中で人類が社会性を保てないことを報告した.現代の戦争は食物が人類にとって未だに負の要因となり得ることを教えてくれる.人類の独特な社会性にとって食物はいかなる影響力をもつのか.多様なアプローチから討論してみたい.
8:30〜 S5-1 食物と社会の進化-霊長類の場合
斉藤千映美(宮城教育大・環境教育実線センター)
S5-2 チンパンジーの食行為-タンザニア,マハレ山塊国立公園Mグループの事例から
伊藤詞子(京都大・理)
S5-3 二足歩行と食物分配
西田正規(筑波大・歴史人類)
S5-4 狩猟採集民の食物分配と居住集団
北西功一(山口大・教育)
〜11:45 S5-5 食料分配と飢餓・紛争—アフリカにおける人道的介入の政治性
栗本英世(大阪大・人間科学)
シンポジウム6 B会場
21世紀日本人の脳と身体の成長(オークソロジー分科会シンポジウム)
オーガナイザー:佐竹隆(日本大学・松戸歯・解剖)
濱田穣(京大・霊長研・形態進化)
20世紀,日本は経済・社会的に大変動の世紀であった.日本人の生活を取り巻く環境は大きく様変わりした.経済の発展により栄養面での問題はある程度解消され,身体サイズの増大・プロポーションの変化・早熟化などの面で日本人の身体と成長に大きく影響を及ぼした.生活環境の変化は別の面にも見られる.交通事故の心配,空き地などの縮小,マンション等の住宅環境,さらには「団塊の世代」とその後の少子化などの変化である.これらの変化の影響をもっとも顕著に蒙ったのは子どもたちであろう.その第一の変化は,幼児・児童の遊びの質に見られる.最近では屋外での激しい身体運動を伴う遊びよりも,室内でほとんど身体を動かさないTV・コンピュータゲームが主体となっている.こういった幼児・児童をとりまく生活環境,すなわち成長環境の変化が脳・身体の成長と発達へ,いちじるしい影響を与えているだろうことは想像にかたくない.
脳の発達は自律的発達プログラムとともに,身体運動などを介しての外界からの刺激に依存している.この傾向は霊長類,さらにヒトで著しい.したがって子どもたちの成長環境の変化は,身体健康面のみならず精神面へも影響を与え,生活の多くの局面を左右することが考えられる.もし,20世紀のトレンドが継続されれば,将来日本社会の在り様はネガティブに大きく変化するであろうと予測される.
子どもたちの身体と精神面での変化については,多くの専門家・評論家がさまざまに論じている.ここでは「ヒトの博物学」ともいえる人類学と,それに近い霊長類学の研究者が集い,その変化について進化的・長期的・包括的な見地から論じてみたい.以下のような4つの話題を各講演者が提供し,21世紀の子どもたちの成長環境について展望し,将来構想をディスカッションしたい.
8:30〜 S6-1 成長パターンの系統比較と現代人の成長
濱田穣(京都大・霊長研・形態進化)
S6-2 時代変化と成長
河内まき子(経産省・産業技術総合研・デジタルヒューマン研究ラボ)
S6-3 霊長類脳の発達 −脳内機能分子の観点から−
林基治(京都大・霊長研・器官調節)
S6-4 子どもの身体成長と運動
佐竹隆(日本大・松戸歯・解剖)
〜11:45 ディスカッション
一般口演:性 C会場
8:30 C20 雄による子の世話と雌の多重交配の進化モデル
井原泰雄(東京大・理・人類)
8:45 C21 有限集団での性淘汰に関する理論的研究
佐野智,青木健一(東京大・理・人類)
9:00 C22 オスのマントヒヒによる若齢個体に対する世話行動とハーディング行動
森明雄(京都大学・霊長研)
9:15 C23 合成プロゲステロン製剤を経口投与された餌付けニホンザルメスの性行
動とホルモン動態
竹ノ下祐二(京都大・理・動物),清水慶子(京都大・霊長研),浅葉慎介(嵐山モンキーパークいわたやま)
9:30 C24 チンパンジーの発情期間の同期とさけあいU
松本晶子(京都大・理),粕谷英一(九州大・理),高畑由起夫(関西学院
大・総合政策)
9:45 C25 オランウータンの性周期と社会構造
鈴木晃(京都大・霊長研・社会構造)
一般口演:運動 C会場
10:00 C26 スローロリスとオオガラゴにおける下腿三頭筋の筋線維サイズについて
木村忠直(静岡県大・看護),熊倉博雄(大阪大・人間科学),国松豊(京都大・霊長研),石田英実(京都大・理)
10:15 C27 チンパンジー,マカク類における橈骨断面形状の定量分析
菊池泰弘(佐賀医大・医・解剖),Suchinda Malaivijitnond(チュラローンコーン大・理・霊長類部門),鵜殿俊史(三和化学研・霊長類パーク),鈴木樹理,濱田穣,竹中修(京都大・霊長研)
10:30 C28 ニホンザルとパタスモンキーの運動発達比較
茶谷薫(京都大・霊長研,日本学術振興会)
10:45 C29 ボノボ大腿骨横断面形状の特徴
松村秋芳,高橋裕(防衛医大・生物),木村賛(東京大・理・人類),岡田守彦(筑波大)
11:00 C30 霊長類における四肢骨の湾曲と断面形状
山中淳之,石田英実(京都大・理・自然人類)
11:15 C31 傾斜した支持基体上での霊長類ロコモーションの変化について
中野良彦,平崎鋭矢,岡健司,廣川容子,熊倉博雄(大阪大院・人間科学・行動形態)
11:30 C32 身体構造の脳内マップに基づく上肢リーチング動作の生成
荻原直道(京都大・理・自然人類),山崎信寿(慶應大・理工)
一般口演:古霊長類・古人類 D会場
8:30 D23 ミャンマーのポンダウン層(中期始新世)からみつかったアンフィピテク
スの前頭骨の形態解析
高井正成,茂原信生,鍔本武久,江木直子(京都大・霊長研),Aye Ko Aung(タゴン大学),Soe Thura Tun(パテイン大学),Tin Thein(ヤンゴン大学),Maung Maung(マンダレー大学)
8:45 D24 タイ北部における化石類人猿の探索
国松豊(京都大・霊長研),Benjavun Ratanasthien(チェンマイ大学・理),仲谷英夫(香川大・工),三枝春生(姫路工大・自然環境科学研),長岡信治(長崎大・教),矢部淳(福井県立恐竜博物館)
9:00 D25 中期中新世類人猿,ナチョラピテクスの性差:歯牙のサイズを中心にして
石田英實,清水大輔,高野智,中務真人(京都大・理・自然人類),国松豊(京都大・霊長研・形態進化),中野良彦(大阪大・人間科学・生物人類)
9:15 D26 ジャワ原人とオランウータンは共存していたか?-遊離歯における原人と大型類人猿の判別-
海部陽介,馬場悠男(国立科学博物館・人類),F.アジズ(バンドン地質研究開発センター・古生物)
9:30 D27 コンソ遺跡群の動物相と古環境
諏訪元(東京大・総研博),仲谷英夫(香川大・工),B. Asfaw(RVRS),Y. Beyene(CRCCH),加藤茂弘(兵庫県立人と自然の博物館)
9:45 D28 中国南部雲南省から産出したHomo erectus(元謀原人)の年代と古環境
仲谷英夫(香川大・工),兵頭政幸(神戸大・内海域機能研),三枝春生(姫路工業大・自然環境科学研),卜部厚志(新潟大・積雪地域災害研),薛順栄(雲南省地質科学研),尹済雲(雲南省地質科学研),吉学平(雲南省文物考古研)
10:00 D29 葛生出土「人骨」資料群の年代について
松浦秀治,近藤恵(お茶大・生活科学)
一般口演:変異・系統 D会場
10:15 D30 ニホンザルのミトコンドリア遺伝子変異の地理的分布
川本芳(京都大・霊長研・集団遺伝)
10:30 D31 成体オスの頭蓋計測値からみたニホンザルの地域変異
毛利俊雄,西村剛(京都大・霊長研・形態進化)
10:45 D32 海岸山脈地域一帯におけるフサオマキザル(Cebus apella)の系統分類学的位置づけ3
小林秀司(中京女子大・人文),名取真人(岡山理科大・理),L.M.ペッソア(リオ連邦大),J.A.オリベイラ(リオ国立博物館),A.L.ラングッチ(パライーバ連邦大),瀬戸口烈司(京都大・理・地質鉱物)